原作世界 ひとみの絶望 ーーひとみ視点
体育館の後方でアタイは、黒装束に身を包み、後方に立っていた。
壇上の神子様の声が、体育館に響いてる。 そのお言葉に、アタイは歓喜の喝采をあげていた。
ーーいいぞ! アタイの神子様。 全部、神子様の思い通りだぜ!
黒装束たちの拍手に合わせて、アタイも調子よく手を打ち鳴らす。
ところが。 彩乃が叫びやがった。「そんなの絶対に認めない!」とか何とか。
湊の野郎までしゃしゃり出てきて、青臭い綺麗事を並べ立てる。
ーーハァ? うるせぇうるせぇ。 今いいとこなんだよ! 空気読めってんだ。
アタイは舌打ちしたい気分だったが、今は神子様の独断場だ。
しかし、周りの生徒が顔を上げ始めるのを見て、内心で毒づくアタイ。
ーーおいおい、流されんなよ雑魚ども! 神子様に従えよ!
そうこうしている内に、彩乃が札を構えて、神子様に押し付けて苦しみだして。
空中に黒いモヤみたいなのが飛び出してきて、湊が小刀振り回して。
ーーは? なんだこれ。 悪霊? 成仏? 寝言ぬかすな!
アタイは霊だの何だの、そんなオカルト一切信じちゃいない。 信じるのは、目の前にいる神子様だけだ。
だから目の前で起きてることが、まるで安っぽい芝居か手品みたいに見えて、ただ口を半開きにして突っ立つしかなかった。
そして、黒いモヤがふわりと神子様の方へ揺れていく。 神子様の体が、ふっと宙に浮く。
アタイは神子様へ駆け出した。 人混みを掻き分けようとしたが、進まねぇ!
「テメら、どけ……っ、どきやがれ! 神子様! 神子様!」
けど、ダメだった。 前にいる生徒どもが壁みたいに邪魔で、手を伸ばしたって、指先一本届きやしねぇ。
そして――アタイの目の前で、神子様はモヤごと、すうっと掻き消えた。
「……神子様!」
アタイの喉から絞り出した叫びは。
『独裁生徒会長を倒したぞ!』『やったやった!』
――勝利に沸く生徒たちの、馬鹿みてぇな喝采に、あっさり呑み込まれて消えた。
「姉貴! しっかりしてください!」
「大丈夫ですよ。 あの悪役令嬢ですよ? きっと無事ですって!」
「姉貴を運ぶぞ!」
アタイの部下である黒装束たちに担がれて、アタイはこの場を去った。
◇◇◇
「畜生! 桐原彩乃……許せねぇ! 高坂湊、テメーもだ!」
アタイは悔しくて、震えていた。
しかし、どんなに悔しくても時は経つ。 今日は、文化祭の日だーー




