姫様をおだてよう
次の日の昼間。 瑞稀は登校しました。 本当は、朝に来ていましたが、中に入ることが怖くて、できなかったのです。
瑞稀を見るなり、姫様は声をかけます。
「おやおや、これは生徒会長さんじゃないですか? もう、昼休みですよ? 結構な重役通勤ですこと」
「姫様。 おはようございます⋯⋯」
姫様は、瑞稀に対して嫌味を隠しませんでした。
そこで瑞稀は、二学期になってからずっと気になっていたことを言います。
「⋯⋯姫様。 いつもの元気で、気安い『ことね』はどこに行ったんです?」
「ふん。 そんなの私が聞きたいぐらいよ」
姫様は、悩ましげに、湊の方を向きます。
「湊と話す時だけ、勝手に出てきて、後はだんまり。 イライラするわね。 ⋯⋯そして貴方にも」
姫様はそういうと、瑞稀の机の上に座りました。
そして、瑞稀の顔をまじまじと眺めます。
「⋯⋯ふん。 寝不足ね、体つきも以前よりも落ちているわね⋯⋯」
「えっと、姫様?」
「なに? 自分は裏で頑張っていますアピール? ハア、そんなことをしたって、彩乃と同じことになるだけなのに⋯⋯」
あれ? そういえば、彩乃は? 見当たらない。
「彩乃は休みよ。 彼女、深夜とかに毎日山登りをしているから、疲れが溜まっていたんでしょ。 舞香に心配ばっかりかけて、しょうがない姉ね……」
瑞稀は、罪悪感でいっぱいになりました。
続いて、今度は姫様が問いかけます。
「あれ? 美羽はどこ行ったのかしら? 貴方知らない?」
その時、校内放送が流れました。 声の主は美羽でした。
「ピーポパーポですわ! みなさん。 貴方達の昼飯である、購買のパンは全部、私がいただきましてよ! 悔しかったら、私の元に来るといいですわ! 先着で私の特製弁当を差し上げましてよ。 オーホホホ」
瑞稀たちは、お互いに顔を見合わせて苦笑するのでした。
その後。 姫様は、瑞稀に向けて挑発しました。
「⋯⋯ところで、瑞稀。 このままじゃ、文化祭は中止ね」
姫様は、まるで明日の天気を言うように、事実を告げました。
「さて、なにか言いたいことがあるでしょう? 瑞稀?」
姫様は、瑞稀に期待するような眼差しを向けました。
瑞稀には彼女の考えが理解できました。
どうやら、姫様は怒ってもらうために悪戯をしたようでした。
その証拠に嬉しそうな表情の姫様。 瑞稀は、彼女に言いました。
「姫様。 貴方が、なにをしても文化祭は開催されますよ⋯⋯」
「⋯⋯へえ。 ただの生徒会長が、啖呵をきるじゃない」
「貴方こそ、ただの生徒でしょ。 川端ことね」
瑞稀がそういうと、彼女は満面の笑みを浮かべました。
「ふふ。 そうね、私はただの生徒だったわ」
「ですから、貴方はせいぜい、一人の生徒として、文化祭を楽しんでください」
「ははは⋯⋯いいわね。 瑞稀、貴方最高よ」
そう言うと姫様は瑞稀に、一瞬ニコッとして、ウインクをするのでした。
瑞稀は、その姫様の中に『ことね』の存在を確認しました。
姫様も、ことねが人格として現れたことを理解していました。
「はあ、『私』。 ⋯⋯まったくこれもあの子の作戦通りって訳ね」
「さすが『ことね』妹の扱いが上手いですね?」
瑞稀の指摘に、姫様は複雑な表情をするのでした。
一方、二人の教室の様子を見ていた湊。 二人の様子を見て、安心した彼は、スマホを取り出した。
「もしもし、秀五郎です」
「お疲れ様です、高坂湊です。 文化祭の件ですが、行事継続でお願いします」
「あい、わかった。 ⋯⋯まったく板挟みは困るのう」
以前、校長に文化祭の中止を命じた後、二人は秀五郎と面会していたのです。
そして、こう指示しました。 行事継続というまで、文化祭については保留のままにしてほしいとーー




