塞ぎ込む彩乃 駆け回る美羽
夜、自宅の部屋で彩乃は自分に対して責任を感じていました。
彩乃は、私が瑞稀に変なことを言ったせいで、みんながギクシャクしちゃった。 と思っているようでした。
彩乃はただ、瑞稀が悩んでいるから、少しでも元気を出してもらいたくて、励まそうとしただけだったのですが。 結果は、逆効果でした。
当時の瑞稀の状況を、彩乃は思い出します。
「川端さん。 申し訳ございません。 許してください。 ⋯⋯だから、どうか⋯⋯家族には手を出さないで! ⋯⋯私だけ⋯⋯私が全部⋯⋯」
瑞稀の寝言には、こころあたりがあった彩乃。 彩乃は、自分の頭に触れました。 瑞稀に触れてもらった頭に。 瑞稀の後ろに、お母さんの影が重なりました。
瑞稀の笑顔が見たい! そして、褒めてもらって、また頭を撫でて欲しいーー そう彩乃は思っていたのでした。
「こんなことになるなら、なにも言わなければ良かった。 ……お母さん」
一人、自宅の部屋の中で泣き崩れる彩乃。
その時、遠慮がちに、舞香が彩乃を呼びました。
「⋯⋯ごめん。 お姉ちゃん⋯⋯その、健ちゃんが来たよ⋯⋯」
「彩乃。 今いいか?」
少し遠くに健太の声がしました。
「⋯⋯今日は、いつまで経っても来ないから、様子を見に来たんだよ。 ⋯⋯おいおい、どうしたんだ? いつものおまえらしくないぞ……」
健太に、好意を持ち始めていた彩乃にとって、この状況はとても恥ずかしいことでした。
「は、恥ずかしいわよ⋯⋯あまり見ないでよ!」
「ふ。 安心した、どうやら少し余裕が出来たみたいだな」
「え……」
そういうと、健太はソッポを向きながら、話を続けました。
「文化祭な。 中止の打診が俺の親父に届いた」
「え! ⋯⋯と言うことは⋯⋯」
「そうだな⋯⋯このままじゃ中止だ」
「それは駄目! 絶対に駄目」
なんかしないと! このままじゃーー
彩乃が慌てて動こうとした時、彼女の体は、スイッチが切れたように倒れました。
「おいおい。 大丈夫かよ⋯⋯」
「え、ちょっと! なにするのよ!」
健太に抱えられた彩乃は、布団に入れられました。
「⋯⋯今日は、ぐっすり寝とけ。 明日からも頑張れよ⋯⋯」
彩乃はいつのまにか、夢の中へ落ちて行きました。
その様子を見ていた、舞香は健太に声をかけます。
「健ちゃん。 ありがとうね⋯⋯」
「いいってことさ⋯⋯おい! お前も来いよ」
「こんばんは⋯⋯」
「みずちゃん。 もうお姉ちゃんは寝てるよ⋯⋯」
「⋯⋯そうだよね。 ⋯⋯ごめんね彩乃⋯⋯」
辿々しい態度の瑞稀は、彩乃の頭を撫でました。
「⋯⋯こいつ、頭を撫でられて、嬉しそうだぜ」
「みずちゃん、お姉ちゃんを、あまり困らせないでよ?」
「はは、本当にごめんね彩乃⋯⋯」
◇◇◇
美羽は、倉石家を訪ねていました。 チャイムを鳴らします。
「はい、倉石ですが」
「すみません。 瑞稀のお母さん。 瑞稀はいますか?」
「⋯⋯いいえ。 ⋯⋯瑞稀がどうしたの?」
「あ、いえ。 いないのでしたら問題ないです! 失礼しましたわ」
ーー瑞稀! どこにいるんですの! 先日からの態度、私のはらわたは煮えくりかえっておりますわよ! 私たちは親友ですわ! 貴方がどう思うか関係ないですわ! その貴方が悩んでいるなら、手を差し伸べるのが私ですわよ!
「川端よ⋯⋯って貴方、いつまでほっつき歩いているの?」
「姫様! 瑞稀は!」
「コッチに来るわけないじゃない⋯⋯ほら、早く家に入りなさい」
美羽は、あちこちを駆け巡ります。 はたからみれば、猛獣にしか見えません。
「瑞稀!」
「ミウ⋯⋯櫻井さん」
「探しましたわよ! なんで学校にいるのですの!」
「⋯⋯なんでと言われましても、私は生徒会長ですから、文化祭の雑用をこなしているだけですが? なにか問題でも?」
「大アリですわ! 瑞稀! どうしまして? 最近の貴方は、全然らしくありませんわ!」
「⋯⋯私らしい、ですか。 櫻井さん、それは貴方の思い込みじゃないですか? 教室の様子を思い出してくださいよ⋯⋯ほら、誰も私に話し掛けてくれないでしょ」
「そんなことありませんわ! 私にことね、そして彩乃だって! 貴方に話しかけますわ。 クラスのみんなだって⋯⋯」
「でも、それって貴方の主観ですよね? ⋯⋯客観的に見て、どう考えても私は、ただの生徒会長でしかないんですよ⋯⋯」
そういうと、瑞稀は作業を止めて、部屋の窓から外を見ました。
「⋯⋯私はね、生徒会長になれば⋯⋯みんなと仲良くなれる。 そう、思い込んでいたんですよ。 でも、現実は無情です。 みんなから見て私は、ただの生徒会長としか見られなくなった。 私とクラスメイトの間に、見えない壁があるんです。 ⋯⋯貴方も転校して来た時、感じたでしょ? その壁を。 私は超えることができない⋯⋯だって私は臆病だから、貴方と違ってね……」
一通り、話し終えて満足したのか、瑞稀は手を振って、美羽を帰そうとしました。
美羽は大きなため息をつきました。
「⋯⋯問題でも?」
「呆れましたわ。 なんてくだらないこと」
「⋯⋯なんですって? よく聞こえませんでしたね⋯⋯」
「くだらなすぎて、呆れたと言っているんですの!」
「はあ? 私の問題がくだらないだって! 貴方に、私のなにがわかるの!」
「瑞稀が言った通りですわ、私も臆病ですもの。 私たちは似たもの同士ですわ」
「だから! ミウミウと私は違うの! ミウミウは臆病なんかじゃない!」
「瑞稀は臆病なんかじゃないですわ! 私と違ってですわ!」
瑞稀は、ポカンとした顔をしていました。
そんな瑞稀に美羽は近づきました。
「瑞稀。 私だけじゃ駄目?」
「え?」
「私だけでもいいじゃないの!」
「ミウミウ⋯⋯」
「二人で一緒に、明日を迎えるのですわ!」
「⋯⋯私はミウミウだけには、弱みを見せたくなかったのに⋯⋯」
「ふふ、私も貴方には、弱みを見せたくないですわ……」
二人で夜空を見上げていました。 なんだか、貴方がいればなんでもできる気がしますわ。
美羽と瑞稀。 二人の青春は、これからですねーー




