物語のヒロインの流儀
山頂の祠から下山の道中。 降りた健太と彩乃はお互い、無言のまま歩いていました。
健太は、彩乃の服の汚れ具合を見て、とりあえず自分の事務所へ連れて行くことにしたのでした。
その事務所を見た彩乃は、大声を上げます。
「ここは! 密会場所!」
「なんだ? 密会場所? 俺の営業オフィスなんだけど⋯⋯」
とりあえず、彩乃の体は泥だらけだったので、お風呂に入って欲しいと思った健太。
「詳しい話は後だ、風呂に入れ!」
「どうも。 その、ありがとう……」
彩乃は、自分が汚れていることを、自覚していました。 おとなしく指示に従い、風呂場に向かいます。
その間、健太は一人、考えていました。
ーー桐原彩乃。 あの女、何者だ? 何故あの祠の存在を知っている? 状況によっては対策を考えるべきだな。
健太は、頭の中でいくつもの可能性を考えます。 これは、数々の企画を成功させた、彼の特技でした。
ーーやっぱり、アイツに相談するべきだよな?
健太は、ポケットからスマホを取り出してDMを送るのでした。
やがて、風呂から彩乃が出てきました。 ーーしかし、彼女は汚れた制服姿でした。
「そうだな…… 置いてある服を着るか? 多分、サイズは丁度いいだろ……」
「え? どんな服?」
「パーカーとジーンズだけど……」
「……じゃ、無しだわ……」
健太の提案を断る彩乃。 健太は、そんな彩乃の様子が気になりました。
「なんだよ? 似合うと思うぜ?」
「駄目よ! 物語のヒロインは制服姿が鉄板なの! そもそも貴方も制服姿じゃない! そんな中でカジュアルな格好なんて浮くわよ!」
「物語のヒロイン? お前が?」
そう言いながら、健太は自分の制服を見ます。 今日は、学校に行っていたのでこの格好でした。 そうは言っても、夏休みでも毎日学校に行く健太なのでした。
「洗って、乾燥させるから。 な! それならいいだろ?」
「是非お願いします!」
そう言うと、彩乃は嬉しそうに制服を脱ぎ出しました。
突然の行為に、驚く健太。
「おい! 脱衣室で脱げ!」
「あ、ごめんなさい。 汗臭かったから、つい……」
彩乃はそう言うと、顔を真っ赤にさせながら、脱衣室へ向かうのでした。
「まったく。 とんだ、破廉恥ヒロインだなぁ?」
健太は、彩乃の様子を見て、なぜか体が暑くなるのでした。
また、しばらくして。 パーカーとジーンズ姿の彩乃が戻ってきました。
そんな彼女は、今着ている服をキョロキョロ見渡していました。
「ねえ? この服、サイズぴったりなんだけど? 女性用?」
「そうだぜ。 幼馴染が、泊まり込みする時に着るからな」
「へ……」
健太は、さっきDMを送った、幼馴染の彼女のことを思い浮かべました。
ふと、健太は本題を思い出し、彩乃を睨みつけました。
「それで、泥だらけでなにしてたんだ?」
「山に宝探しを⋯⋯」
「ほう? 物語のヒロインが泥だらけで?」
「嘘です! すみません!」
彩乃は健太に事情聴取されています。 どうにか誤魔化そうとしましたが、通用しません。 彩乃は諦めて祠の話をすることにしました。
「理解した。 君にはこれから、親父に会ってもらう」
「え? 柳田秀五郎に!」
「おう、詳しいんだな!⋯⋯やっぱり俺の判断は間違ってなかったか⋯⋯」
「……」
そうと決まれば、善は急げ。 健太は彩乃を連れて、屋敷へ向かおうとするがーー
「待って、制服に着替えるから……ここは大事な場面なの!」
「無理な、相談だな」
そう言うと、健太は彩乃をお姫様抱っこで運びました。
「そんな! 物語の名シーンが!」
嫌がる彩乃と共に、柳田家に向かうのでした。




