ことねの秘密
瑞稀は母親に電話して、お泊まりの許可をもらったようです。
「ありがとう、舞香」
「いいよ! お姉ちゃんは寝てるから、気にしないで!」
「マイマイ! 勝負ですわ!」
「不意打ちとは! ミウミウ、大人気ないよ!」
舞香にお礼を言った瑞稀は、彼女が美羽と遊ぶのを苦笑いで見ていました。
そんな彼女にことねがそっと近づきます。
「⋯⋯瑞稀は帰らないのかしら?」
「うん、今電話してきたから」
「あ、そう⋯⋯」
瑞稀はことねに違和感を持ちます。 今日の推薦演説の時といい、ことねの様子が違ったのです。
そこで瑞稀は、ことねに質問をすることにーー
「ことね! 一緒に推しについて話そう!」
「私は、そう言うの興味ないかな⋯⋯」
「⋯⋯貴方は誰ですか?」
瑞稀の口から疑問の声が出ました。 彼女にとっては、咄嗟の発言だったのですがーー
それは、的を射た発言だったようで、ことねは気まずい表情を露わにしました。
「私は『ことね』よ。 と言っても、貴方達が普段接している『ことね』とは違うけどね」
「⋯⋯なるほど、二重人格ってことか⋯⋯」
瑞稀は納得しました。 ことねが時々、態度が変わる理由がわかったようです。
では、今の彼女はどの立場なんだろうかと、瑞稀は疑問を持ちます。
「貴方の目を見れば、わかるわ。 残念だけど、私が『主人格』ね」
「えっ! ⋯⋯それって」
ということは、お嬢様然としたことねが、本当のことねだったのです!
動揺する瑞稀を見て、ことねは悲しげに顔を俯かせます。
「⋯⋯ごめんなさいね。 貴方の期待に添えなくて⋯⋯」
「ありがとうございます! 最高です!」
瑞稀は感動した様子でことねを見ています。
「⋯⋯あなた、話を聴いてた?」
「握手お願いしてもいいですか?」
「はい? いいですけど。 気持ち悪いわね⋯⋯」
ーーわあ! ことね姫様だ! 私の理想の形がここに!
どうやら瑞稀は、ことねの素の姿が大好きなようです。
「やった! ことね様の握手いただきました!」
『ちょっと! 瑞稀ちゃん! 酷いよ!』
「あ、戻って来たの? ことね」
『そうだよ! 私が怯えてるよ! だいたい握手とか、いつもしてるじゃん! それ以上のこともね! ⋯⋯チラチラ』
ことねが、こちらを見ていますが姫様と違い全然迫力がないようで、瑞稀には全然堪えませんでした。
「え! だって、ことねと姫様は別人でしょ?」
『確かにそうだけど! ⋯⋯ちょっと!』
瑞稀は、ことねを抱きしめた。 ことねの体が暖かい。 ことねの顔を見ると、ことねの優しい瞳が、瑞稀を見つめていました。
するとことねは、憂鬱そうに瑞稀を見つめますーー
「⋯⋯ねえ、不気味に思わない? 私のこと⋯⋯」
「なんで! ギャップ萌えじゃん! お得だよ! ⋯⋯えっと、これからは姫様とことねで読み分けるから!」
「⋯⋯あ、そう。 じゃ、いまはどっちか、わかる?」
「意地悪するつもりでしょ姫様!」
「そうね⋯⋯。 よくわかっているじゃない」
そう言うと姫様は、恥ずかしいのか、顔を赤らめます。
「よし。 じゃ、『三人』で女子トーク始めるよ!」
すると瑞稀は、ノートを開いてチェックマークを入れます。 ことねはそのノートを覗き込みます。
「⋯⋯そのリスト、だいぶ適当なのね⋯⋯」
「姫様。 適当なのは、私の長所ですよ。 姫様が好きな高坂さんもそうじゃないですか?」
「⋯⋯たしかにそうね。 『そんなことないよ! 湊はいつもしっかりしてるよ! 朝、起こしに来たり!』それは私たちが寝たフリをしているだけよね」
「高坂さんのことが好きですか?」
「⋯⋯」
『当然だよ! ちなみに、私よりも私の方が』
「余計なことを言わないで。 湊とは、幼馴染として接しております⋯⋯」
瑞稀は姫様の方が、湊への依存が高いと思ったようです。 そんな様子に、ことねは不服そうです。
「⋯⋯なにか問題でも?」
『それよりも! 瑞稀ちゃんの方はどう? 好きな人とかいる? いたら教えてよ!』
「私はいないですね。 リア充なんて滅びろって思いますね」
「難儀だわ。 引くわね⋯⋯」
どうやら瑞稀は、女子トークに不向きなようですね。 そう判断した、瑞稀は美羽と舞香のところへ向かいましたが、二人とも抱き合いながら寝ていました。
「寝てますね」
「⋯⋯まったくなんで、美羽は私と距離を取るのかしら」
「⋯⋯仲良くしてないんですか?」
「『私』はそう言うことは気にしないらしいけど、私はとても気になるのよ。 なんとかならないかしら」
「ことねに頼るしかなさそうですね」
「やはり、そうなのかしら⋯⋯こう言う時に限ってあの子は、出て来てくれないのね。 ⋯⋯私だけでどうにかして欲しいから」
「なんだか、ことねって姫様のお姉さんみたいですね」
「お姉さん⋯⋯『いいね採用!』⋯⋯まったくもう」
ことねと姫様は大変だな、と他人ごとのように思う瑞稀でした。
「⋯⋯ねえ瑞稀。 私も質問いいかしら?」
「なんですか姫様?」
「貴方のその胡散臭い伊達メガネ、いつまでつけたままなの?」
「⋯⋯はは。 姫様は容赦ないですね⋯⋯」
ことねが問いかけると、瑞稀は薄ら笑いをするのでした。




