狂人の天敵は、純粋無垢
後日の夕方。 アタイの家には、舞香が来ていた。
「はわわ。 舞香さん、今日はなんの用ですか?」
「この前の件なんだけど。 倉石さんは、なんであんなに怒っていたの? ……吉澤さん、心あたりある?」
「えっとぅ。 よくわからないですぅ」
舞香には、まだアタイの猫被りはバレてねぇようだなぁ。
ーーさて、どうしたものかなぁ? なにが一番面白いんだ?
「櫻井さんが、最近悩んでいるんです……」
「あららぁ。 瑞稀さん絡みですかね?」
「ううん。 吉澤さん。 貴方のことでだよ」
「へぇ……理由をお聞かせくださいー」
なんだ? 櫻井美羽は、今幸せのはず。 現状に、なんのケチがあるんだ?
「……あんまり、美羽を怒らないであげてね?」
「は〜い。 わかりまぁ〜した!」
「『ひとみがおかしいですわ』って呟いてました」
「……」
ハア? ざけんじゃねぇぞ、お嬢様!
その夜。 アタイは、いつものベンチへと向かった。
美羽は今日もいた。 メイド服姿で、膝に手を置いて、ちょこんと座ってやがる。
アタイの足音に気づいたんだろう。 美羽が顔を上げた。
その瞬間、あからさまにバツの悪そうな表情をしやがった。 目を逸らし肩を縮こめて、反省している犬みたいだ。
「……ひとみさん」
「よぉ、美羽。 ごきげんよう、ってか?」
わざとらしく笑ってやる。 美羽の肩が、跳ねた。
「舞香から聞いたぜ。 アタイがおかしい、ってお前が呟いてたってなぁ? ……なに様のつもりだ?」
「っ、それは……私は、ひとみが心配で……」
「……ハア? アタイが心配?」
アタイは美羽の隣に腰を下ろした。木のベンチが、ギシッと軋む。 美羽はますます縮こまって、視線を膝の上で泳がせている。
「……だって。 ひとみ、変ですもの」
「……変、ねぇ」
「……何か、無理しているような、偽っているような……」
言いかけて、美羽は口をつぐんだ。 ああ、コイツはアタイの本性を知ってると思い込んでいるな?
ーー残念、アタイは最悪な奴なんだ。 自らの理想を叶えるために、お前らを犠牲にするんだ。
「……美羽。 アタイにはな、やりてぇことがあるんだ」
「やりたいことですの?」
「瑞稀の計画。 あれに、お前の力が要るんだよ……」
ーーそう。 お前のありたっけの絶望が。
美羽が、ようやくこっちを見た。 月明かりに、その瞳が揺れている。
「……アタイと瑞稀のためだ。 手を貸してくれねぇか?」
「ひとみと瑞稀のため……」
ーーくう。 純粋なお嬢様を欺くのは、心が痛いぜ!




