親友だよね、私たち?
服屋を出て、アタイたちは近くのカフェに入った。
丸いテーブルの席に三人。 瑞稀と美羽の間に座る。
「はわわ。 何にしましょうか?」
「別になんでもかまいません…」
美羽は、語尾を不自然なに低くした。 『わ』と言う言葉が耳に届きやがる。
「私は苦いのが苦手だなぁ」
なんだよ? 意外だな。 瑞稀はむしろ好きだと思ってたのによ?
それぞれの注文を終えて、また沈黙。 アタイは焦った。 ここで会話を生まないと、せっかくの大作戦が水の泡だぜ!
「えっと、二人とも! 服似合っていると思いますよぅ」
「そうかな? はわわさんも似合っているよ、でもこの前のラフな格好もよかったね! ……あれが普段着かな?」
「……え? そんな〜 いつも、スカートですよ〜 だから、この格好は恥ずかしいです〜」
「本当は、別の意味で恥ずかしいんじゃないの?」
ーー瑞稀。 人の心に土足で入ってきやがるぜ。
「……」
で、美羽はまた、元通りかよ。 ガード硬すぎだろコイツ!
「じゃあ。 二人こそ、普段どんな服着てるですかぁ?」
ーー本当は知っているけどな!
「……私は、私服を封印したんだ。 ひとみも知っているくせに……」
「ゴホン。 美羽は? どうなんだよ」
「……普段はあんまり。 制服か、メイド服です。 私は雇われているので、当たり前です……」
「OK OK 質問が悪かったです。 じゃ、前はどんな服を着てたんですか?」
「う〜ん? やっぱり、お嬢様だからドレスだよね?」
「違いますわ。 私もラフな服装が好きですわ!」
ーーついに本性を現したか、美羽お嬢様? よし。 また心を閉ざす前に、突っ込むかーー
「ううん。 意外です〜 でも、お似合いです〜」
「櫻井さんってお嬢様なんだね! 美羽って呼んでいい?」
「いいですわよ。 私も瑞稀と呼んでいいかしら?」
二人がお互いに、見つめあっている。
ーーよし! これで仲良しだな。 作戦成功だぜ!
◇◇◇
カフェを出て、河川敷のベンチに三人並んで座った。 夕日が川面に溶けて、世界が茜色に染まっている。
「ねえ美羽。 どうしてお嬢様口調隠してたの?」
「……それは」
ーーおい瑞稀! 聞くなよ、そういうのを。
「……前の学校で、いじめられていましたの。 お嬢様口調が、生意気だって……」
美羽は当時を思い出して、辛そうだぜ。
「……だから、転校を機に、やめようとしましたの。 『わ』とか『の』とか『パパ、ママ』とか……」
「……ねえ? その、いじめてた人たち。 どんな子だった?」
瑞稀の声が、ふいに低くなる。 どうしたんだ急に。
「女子三人組ですわ。 名前は……」
美羽が名前を答えた時、アタイはこの世の狭さに驚いた。
「……そっか。 そうか、そうなのか。 ぐふふ……」
瑞稀は川面を見つめたまま、ぶつぶつ呟いていやがる。 そして、瞳の奥がぐにゃりと歪むように笑っていた。 ーーマズイぞコイツ。
「奇遇だね〜 私もそいつらにいじめられていたんだ〜 ……あ、頂戴いいものがあるんだ! 今出すね!」
「な、なんですの瑞稀! 一体なにが出てきますの?」
瑞稀の手が、トートバッグの中をまさぐる。 その手には藁で編まれた、人型のものが三体。 ーーなんでバッグからそんなもんが出てくんだよ!
胸のあたりに赤い糸で名前が縫い込まれているのが、夕日でちらりと見えた。
「……ふふ。 美羽、一緒にアイツらに呪いをかけよう……」
「……瑞稀。 駄目ですわ。 そんなこと無意味ですの! ……私はこれからもずっと、苦しみ続けるのだわ!」
「……あ、そう。 残念だなぁ〜 残念だなぁ……ぐふふ」
夕日が橋の向こうに沈もうとしていた。 藁人形を抱きしめる瑞稀の姿は、怖くてアタイは口を挟むこともできない。
「……欲しくなったら、いつでも言ってね……だって、私たち親友でしょ?」
瑞稀の笑顔が、今日見た中でいちばん怖かった。
ーーこれじゃ駄目だ! こうなれば、本丸を叩いてやるぜ!




