借
自分の頭がおかしくなったのかもしれない。
喜助はこの数時間で何度自分の頰を抓り、頭を叩いたか数えられなかった。
「…あの時の…、」
妖退治の夜に出会った、異常に妖と繋がっている青年。その青年と昨日今日出会ったとは思えない様子で話をする楓。正直、理解が追いつかない。
「君がここに彼まで連れてきたと言うことは、それなりに切羽詰まっているのかな?」
目が合った青年に親しげににこりと笑いかけられ、居心地悪く目を逸らす。
「時間があんまり無いかもしれなくて…」
簡潔に今起こっている事とその経緯を話し、流風は相槌を交えながら静かにその話を聞く。
「それで、君は僕に何を聞きたいんだい?」
全ての話を聞き終え、流風が首を傾げた。
「その、和磨くんが妖を認識できるように…なれないかな。一日!…一時間でも良いの。」
「何故だい?妖が見えなくとも、別れの場は作ってあげられると思うが?」
「それだけじゃダメ。今のままじゃ和磨くん、和泉さんの事…嫌いになっちゃいそうな気がする、から…。」
まだ話していないことがあるのか、それともただ根拠のない予感だからなのか。楓の言葉が萎んでいく。
確かに、和磨は和泉を忘れたいのかもしれない、そんな雰囲気を醸し出していた。だが、妖がわかるようになったとして、その気持ちが払拭できる要素は見当たらない。
(妖の葬式出て何か変わる思っとるんか?)
「すまん、流風。俺がそいつに余計な事を話した。」
「おわ!びびった!」
考える喜助の背後で声がした。
「やあ。最近よく会うね、阿蘭。」
振り返り、すぐに人型を取った妖だと理解した。
「うわ、また別の来た…」
阿蘭と呼ばれた青年が思わず零した喜助を見、舌打ちをした。
「楓。あまり山の深みに人間を連れ込むな。」
「ごめん、でも…大丈夫。」
「一生のお願いをしたようだ。」
明らかに馬鹿にした言い方で白い鳥が降り立つ。
「?何だその子供みたいなやりとりは。」
呆れる阿蘭に楓がむっと押し黙り、同じように喜助も黙る。
「君も、彼女と同意見なのかい?」
「あぁ。」
「それは、誰の為に?」
よく知らないが、この阿蘭という青年も楓とは知り合いらしい。“楓のため”。そう言うのかと思った。
「…和泉への手向けだ。」
阿蘭が口にしたのは、故人への労りだった。
「…わかったよ。だが僕の足では間に合わない。白鴉、頼まれてくれるかい?」
「……人使いの荒い奴らめ。」
人間だったらきっと、“よっこらせ”と重い腰を上げているように白鴉が立ち上った。
「小娘、そう長くはかからん。小僧を連れて鍛冶場に戻れ。」
そう指示を出し、白鴉がバサバサと羽音を立て地面に降り立った。
「!…あの時の銀髪か!」
地面に降りた白鴉は鳥の姿ではなかった。喜助がハッとする。流風と共に居た、凄まじい妖気を放つあの翼を持った銀髪の人型妖だったからだ。
「フン、未熟者め。」
吐き捨てるように一言残し、白鴉が一瞬にして舞い上がった。
軽やかにハラリと落ちてくる羽を見、楓が喜助に向き直った。
「戻ろう。」
きっと大丈夫、そんな信頼が伺える表情に喜助は複雑な心地で頷いた。
「…珍しいね、故人への手向けとはいえ、君がわざわざ人間に加勢するなんて。」
「借りがあるからな。」
「ふふ」
「やめろ、気持ち悪い。それに…返さなきゃならないものがもう一つある。」




