彼
「…えぇ、けど。」
楓がそれを頼むことで何をどうしたいのかはわからなかったが、
喜助自身“の一生のお願い”を聞いてもらっている以上、自分だけ断るわけにはいかない。わけがわからないなりに頷くと、楓は一言「ありがとう」とだけ返し、喜助の脇をすり抜け一本の木の元へずんずんと進んでいった。
「白鴉、流風は?いつものところ?」
話し掛けたのは枝に停まっている白い鳥だ。そう言えば先程もこの鳥に文句を言っていた。
(なに…鳥に話し掛けとんねん。)
意味がわからず一人と一羽を見守る。
「…やつの居場所などいちいち知らん。お前がそう思うのならそうなのだろう。」
「!その鳥も妖なんか!」
驚き、そして警戒を孕んだ声に鳥が目を細めた。大声を出された獺が目を細めるのとは違い、侮蔑の色を含んでいるように感じた。
「小娘、お前の一生の願いとやらは早々に破られそうだな。」
じとりと睨んでいるのか、白い身体で黒い瞳が細められたままなのがよくわかる。
「まだ…何も口出してへんやろ。」
(…聞いたことある気ぃすんな、この偉っそうな喋り方…。)
そう大きくもないその鳥に圧を感じ、口を噤む。
「藻助。あらぬ誤解を呼ぶ。小娘に刀を返せ。」
「ん゛ー。」
鳥の言葉に獺が名残惜しそうに楓の元まで刀を持って行った。
受け取った刀を腰に差す楓と目が合った。
「どうする?戻る?それとも…」
「行く。」
自分が付いていかない方が楓は上手く立ち回れるのかもしれない。妖への不信感が、同行を後押しした。
楓は藻助に“葬式”に関して尋ねると、藻助と別れて迷わず山道を突き進んで行った。
どれくらい歩いただろう。あまり見覚えのない祠や道祖神の転がる山道を進んだ先に、大きな古木が見えてきた。
「居た… 流風!お願い、知恵を貸して。」
楓が駆け寄った先。
振り返ったその人物の顔を見て喜助は息を呑んだ。
妖蝙蝠の退治に出た夜に出会った謎の青年がそこにいたからだ。




