訳
「あなた…和泉さんのこと、知ってるの?」
刀に残った和泉の気を敏感に感じ取る程度には和泉を認識している。そう確信し、喜助を押し退けた楓が獺に尋ねる。
「おでの、ともだち。」
拙くて短い言葉に全て詰まっていた。この獺は生前、和泉と交流があったのだ。そして、その死を知っている。
「そうなんだ…。ねぇ、何で和磨くんのこと呼んだの?」
「かずまくん?」
初めて聞く単語のように何度か呟き、獺は首を傾げた。
「とぼけんな!お前言っとったやろ!」
喜助の声に獺は再び目を細めた。睨んでいるわけではなく、大きい声が嫌なようだ。喜助を手で制して獺の目線に合わせて屈む。
「えっと…和泉さんの息子さんは知ってる?」
「いずみの?うまいやつ?」
喜助が顔を険しくさせたのを背中に感じながら、楓はそっと問い返した。
「…何で“うまいやつ”なの?」
「? いずみがいってた。」
「「……はぁ?」」
ーーー
和磨の名前を知らず“うまいやつ”と認識している獺。理由を聞いても和泉が言ったから和磨をそう認識していただけで、なぜ和泉がそう言ったのかも知らなかった。
「わかった。もう呼び方は置いとく。じゃあ、何で、その…うまいやつを呼んでたの?」
楓が根気強く別の切り口で尋ねると、獺ははっきりと一言発した。
「そうしき。」
“葬式”。
きっと楓も喜助と同じ単語に辿り着いたのだろう、目を丸くして喜助を振り返った。
「みんなでよんだけど、きこえない。」
「…そっか、和磨くん見えないから…」
呟き、楓が眉を潜めた。
「ねぇ、お葬式するってことは…それが終ったらお墓に入れる、の?」
「そう。」
恐る恐る尋ねた楓に、獺は当然と言わんばかりに頷いた。
「ダメだよ、ちゃんと家族のお墓に入れてあげないと!」
声量を増した楓に獺が目を細める。
「いずみはやだって。うまいやつきたらいいって。」
「………。」
和磨の話からして、遺体を取り戻したところで一族や村の人間が喜んで迎えるとは思えない。それは喜助も理解出来た。
「和磨くんに妖…どうしたら…」
ブツブツと何かを呟き、楓が意を決したように立ち上がると、喜助に真っ直ぐ向き合った。
「…一生のお願い!」
ついこの間、喜助がした時と同じように楓が手を合わせた。
このまま私に任せて里に戻るか、付いてきても良いけど、これからあること…全部忘れて!




