友
「楓ちゃん、ここ居って!!」
先に身体が動いたのは喜助だった。
いち早く声の聞こえた方を見定め、楓にこの場を任せて走り出す。
「どうしたの?みんな怖い顔して?彼なんてどっか行っちゃうし…」
和磨はきょとんとしている。さっき喜助と聞き取った声は聞こえていないようだ。
(悪い気配はしなかった…)
自分の直感を信じるとすれば、和磨はもし狙われていたとしても、悪意を持って狙われているわけではない。少なからず楓はそう思っている。
喜助は人間を“うまい”と認識して声を掛ける妖を相手にすれば問答無用で斬りかかりかねない。
破魔の里の人間として、優先して守るべきは和磨だ。
だが本当に和磨に危険は迫っているのだろうか。周囲に危険な気配は無い。和磨の居る方向を見、遠くなっていく喜助に視線を飛ばす。
「………。」
「楓ちゃん?」
「和磨くん…ごめん、多分大丈夫だとは思うけど、鍛冶場の中に居て!」
指示を出しながら喜助を追いかける。
お互い山道を走るのは慣れている。喜助が止まらない限り追い付けはしないが、離されもしない。一定の距離を保ったまま、前を見据え走る。
「やはり里の人間は騒がしいな。」
聞き覚えのある声と共に、バサバサと羽音が聞こえた。
「白鴉…?お願い!和磨くんが危なくないか、見張ってて!」
思わぬ助け舟に走りながら頼み込む。
「…あの小僧を止めろ,ではないのか?」
「だめ。妖がまた増えたって余計に火が点いちゃう。」
走りながら会話をするのもなかなか苦しくはある。一気に言葉を吐き出し、息を吸い込む。
「自分なら小僧を止められるのか?」
「わかんないけど!止めなきゃ…!」
「フン、小僧に遠慮しているようでは無理な話だな。」
白鴉がそう鼻で笑った。
「遠慮…?私が?」
「小僧相手となると普段の沸点の低さはどこへやら。」
反論出来なかったのは、走っていて息苦しかったからではない。図星だったからだ。
「喜助くんがああなるのは…仕方ないから…」
家族を妖に殺されている。その痛みを知っているからこそ、楓は喜助に強くものを言えないでいた。どこかで制限していた。
「お前のいう“友”とは、そうして変に踏み込まず、本音を隠して接する相手ということか?」
白鴉の言う通り、こうして黙って走っているが、事前にした約束を忘れて目の前の脅威に突っ走っていくのが里の仲間の柾や、吽蓮だったら、そうは行っていないはずだ。
「心配せずとも鍛冶場に悪しき者は近付かない。そもそもこの付近に危険な気配は無い。」
白鴉の言葉に、自分の直感は間違っていなかったのだと少し安堵する。
「なら、ちゃんと止めなきゃ…だね。」
喜助が追っているのは悪い妖ではない。そう確信し、楓は足の回転を速めた。




