興
何も……見つからなかった…)
鍛冶場で和磨と別れ、その周辺で火車の手掛かりを探し回った。
目撃証言を得ようにも、人どころか妖にも殆ど出会わない。
結局何の手掛かりも掴めないまま、楓は里へ戻った。
「あれ、今帰り?…もしかして、朝に会うたまんま出とったん?」
足取り重く、家へ向かう楓に声が掛けられた。喜助だ。
「あ…喜助くん。そうだよ、今帰ったとこ。」
「何とかなったん?刀。」
喜助なりに気にしてくれていたらしい。
「んー…なったというか、まだこれからというか…。頼み事叶えてくれたら直してくれるって人が居た、かな。」
全て話すわけにもいかずに端折って答える。
「良かったやん!…あれ?それ、どうしたん?」
喜助の視線が楓が携えている刀に吸い寄せられる。
「えっと…」
「ちょ、見して?」
どこから話すべきか逡巡している楓だったが、まず喜助は目の前の刀に興味の矛先が向いたようだ。
「良いけど…」
目的はわからないが、貸して悪いようにする喜助ではない。差した刀を手渡すと、喜助は短く礼を言って鞘から刀を少し抜いた。
「……金森和泉のやつ?」
「!喜助くん、知ってるの?」
「楓ちゃん、刀に興味無さすぎやろ。良い刀求めたら金森和泉作の刀なんて早々に挙がるで。まぁ…魅染らしいし、手ぇ出すヤツは限られとったけどな。」
再び聞く“魅染”という単語にずんと気持ちが重くなる。
「もしかして、金森和泉に会うたん?」
「ううん、その息子さん。和泉さんは…、…亡くなったんだって。」
楓の言葉に喜助が静かに息を呑んだ。
「そうなんや。でも、老衰って歳やないはずやろ?…もしかして妖に…!?」
「違うよ!病気って。」
「何や。頼み事〜、言うから妖に殺されたんかと思ったわ。」
いつかの巨大蝙蝠の件で少し緩んだかと思った喜助の妖への敵対心は根強く残っているらしい。
「ほな、何頼まれたん?わざわざ里の人間頼るんなら妖絡みやろ?」
「えっと…ちょっと、ね。」
和磨から他の人間に内密にして欲しいとは言われていない。
だが、妖への当たりがきつい喜助にこの話をして良いものかという迷いが、楓の口を重くさせた。明日にでも流風や阿蘭の元へ相談しに行こうとしていたからだ。
「実は、その…あんまり大っぴらにしないでほしくて…」
「楓ちゃん!一生のお願い!俺もその頼み事、手伝わさせて!」
パン、と大きな乾いた音を立て、喜助が手を合わせて懇願する。
「え?」
「楓ちゃんは興味無いから知らんやろうけど、金森和泉の刀なんてそうそう拝めへん。その頼み事聞いたらその息子が刀打つトコも見れるんやろ?こんなん一生のお願いにしてもお釣りくるわ。」
喜助の興味は和磨のした依頼ではなく、刀鍛冶親子に向いている。
火車の捜索も楓一人ではなく、喜助が居れば流風や阿蘭の手を煩わせることもないかもしれない。
「…わかった。でも、私の“お願い”は聞いてね?」
もしかすると妖相手に無駄に噛み付くかもしれない喜助に条件を付け、楓は喜助の頼みを聞くことにした。
(何も無いと良いけど…)
次の日、共に出る約束をして見送った喜助の背中。ほんの少し、湧いた不安は消せなかった。




