消
鍛冶場を後にして、和磨はやれやれと畳に転がる。
(元気なんだか弱ってんだかよくわかんないや。)
鍛冶場からは相変わらず刀を打つ音が聞こえてくる。
「あの調子じゃ化けて出て刀打ってそう…」
父の元で修行をしていた頃に毎日聞いていた、和泉が刀を打つ音。少し懐かしい気持ちになって目を閉じる。朝になったらもう一振り完成させているかもしれない。そんな事を考えながらふと目を開く。どのくらい時間が過ぎたかはわからない。
槌の音が止まっていることに気付いて、和磨は鍛冶場に様子を見に行ってみる。
鍛冶場の炉の火は落ちていた。その静かな鍛冶場で、和泉は床で寝転がっていた。こうして中休みを床で転がって過ごすのもよく知る光景だ。
「だからさぁ、布団で寝てって言ったじゃん。……父さん?」
返事はない。
近付き、声を掛けてすぐにわかった。
手遅れだ。
静かにそう察し、母家から布団を持ち込み寝かせてやる頃には息を引き取っていた。
傍に腰を下ろして見る父の顔は、あまりにも穏やかだった。
(ホントにやりたい事しかしなかったな、この人。)
哀しいとか、寂しいとか。感情があるのかと言われたら、無いに等しかった。ただぼんやりと横たわる和泉を眺めていた。
「…昨日まであんな刀のことくっちゃべってたのにさ。いきなり過ぎない?」
返ってくる筈もない問いがぽとりと床に落ちた。
(…叔母さんに知らせなきゃ。)
和磨の母は数年前既に亡くなっているため、和磨を除けば叔母が唯一の家族だ。知らせないわけにはいかない。そう思い立ち、下ろしたばかりの腰を上げて土間に下り、外に出ようと引き戸を開けて踏み出した足が止まる。
(顔覆い、した方が良いかな?)
「何か、布…__!熱っ!え?なに?」
鍛冶場を振り返った和磨の隣を何か熱いものが通り過ぎた。
一瞬、炉の火を落とし忘れたのかと思った。しかし、もしそうだとしてもこの近さで熱を感じることはないはずだ。
わけもわからず狼狽える和磨の隣を再び熱が通過する。
「ホント…何なの?」
鍛冶場は静まり返ったままだ。どこか燃えている様子も焦げた匂いもしない。
たった一つ変化していたのは__
「…父さん?」
和泉の遺体が消えていたことだ。




