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父親・和泉の体調が芳しくないと聞き、訪ねた山小屋。鍛冶場兼自宅として使っているその場所で、和泉は気ままに暮らしていた。

父親の住居とはいえ、あまり頻繁に来てはいない。肩身狭く村に住んでいる自分達と違い、のびのびと過ごしている和泉を見たくなかったからだ。


「いやぁ、病気には敵わないなぁ。マトモに打てやしない。…まぁおかげで久し振りに我が息子の顔も見れたし良きとしなければな。」

重い病気を患ったと聞いて訪れた山奥の鍛冶場は、相変わらずだった。

炭の匂い。鉄を打つ音。煤で黒く染まった壁。

ただ一つ違うのは、その音が時折止まること。

「…あのさ。何で大病患った人間が槌持って刀打ってんのさ。」

和磨が呆れた声を零す。

炉の前では、父・和泉がいつも通り槌を握っていた。

「文字通り命を削って刀を打ってみたらどんな出来になるか気になってな。こんな機会におちおち寝てはいられないだろう。だがしかし、思い通りには打てんものだ。」

「馬鹿言ってないで寝てなよ。」

「はは、手厳しい。その辺りは母さんに似たか。」

笑いながら槌を振るう腕は以前会った時より細くなっていた。 打つたびに呼吸が乱れ、時折咳も混じる。それでも和泉は鍛冶場から離れなかった。

「医者は?」

「否。」

「薬は?」

「否。」

「え?死にたいわけ?」

「魅染を診る医者は居らんという話だ。構わん。人間いつかは死ぬ。遅かれ早かれな。」

そう言ってカン、と鉄を打つ。

あっけらかんとしている。

昔からそうだ。

村を追い出された時も『余計な(しがらみ)が無くなるのは喜ばしい』などと笑っていた。和磨には、その楽天さが理解出来なかった。

「……普通、恨まない?」

「恨んだところで人の心は変わらんよ。私の心が汚れるだけだ。心の汚れは刀に出る。視野の狭い人間を恨んで刀を汚すわけにはいかん。」

「父さんさぁ……」

呆れてその後が続かない。和泉は昔からこうだ。

何かを執着して憎み続けることが出来ない。そのくせ、刀には異常な執着を見せる。

「和磨。」

「ん?」

「そこに置いてある打ちかけ、持ってみなさい。」

言われたまま、まだ鍔も付いていない刀を持ち上げる。

「軽。」

「そうだろう?」

嬉しそうに和泉が笑う。頬が痩けて顔色も良くない、でも子供みたいな表情だ。

「……病人が徹夜して作るもんじゃないでしょ。」

「死ぬ前に良い一本を打ちたかった。最高傑作を超えはしてないがな。」

「呪われそうな代物作んないでよ。」

「それだけ想いが籠もっているということよ。」

そう言い切り、けほ、と咳き込む和泉の掌に赤黒いものが滲んだ。

和磨は眉を顰めたが、和泉は気にした様子もなく布で拭った。

「和磨。刀は良いぞ。」

炉の火がぱちりと鳴る。

「人を守る為に振るわれるのに、人を殺せる。」

「……。」

「美しいのに、醜い。妖のようだ。」

「父さん。」

「だから良い。」

刀を見つめるその目だけが、病人とは思えないほど爛々としていた。

昔から、刀を語るとこういう顔をする時がある。月日が経っても環境が変わっても和泉は変わらない。

「私はこれの仕上げをしてから寝るから先に寝ていなさい。わざわざ来てくれたのに茶の一杯も振る舞わずすまないが、同じ刀鍛冶として今夜仕上げてしまいたい気持ちは理解してくれるだろう?」

和磨は溜息を吐いて壁に寄り掛かった。

「……ちゃんと布団で寝てよ。」

「あぁ。」

返事だけは素直だった。

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