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弱
「…痛っ…!」
なだらかとは言えない山道。派手に転倒をした杏が立ち上がろうと腕に力を込める。足が震えるのは全速力で走ったからなのか、恐怖のせいなのかはわからない。
土と涙で汚れた目元を拭って自分が走ってきた道を見る。まるで廃小屋でのあの瞬間が悪夢だったかのように、見た目に変わりはない。危険な何かが追ってく様子もない。
「蓮くん…楠…」
走り続けて掠れた声にもちろん返事は返らない。
変容していく楠の姿が目に、吽蓮の声が耳に焼き付いて離れない。あの場に吽蓮一人を残してしまって良かったのだろうか。罪悪感が渦巻く。
(私が居ても…足手まといになるだけ…)
そう、自分が逃げ出した事に理由を付ける。
「私は…役立たず、だから…」
進行方向の先にある筈の里を見据えて呟く。
杏が進むべきは里へ続くこの道だ。吽蓮もそのつもりで逃した筈だ。
“オレが怖い?”
“楠が、怖い?”
耳の奥で吽蓮の言葉が蘇る。
吽蓮にそう聞かれ、迷うことなく首を振ったあの時。杏の中で何かが変わった気がした。
(あれは勘違い?気の所為?)
地面に付いた手を見下ろす。
まともに刀も振れもしない自身の手に、来た道を戻る理由は見い出せない。
(でも…)
震えを止めるように強く手を握り締め、立ち上がる。




