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突然だった。

ザワッと鳥肌が立つような、それでいて息の詰まるような嫌な感覚。

あまり経験した覚えのない気配に立ち上がって神経を研ぎ澄ませる。

「蓮くん?どうしたの?」

突然立ち上がり、険しい表情をしている吽蓮を杏が見上げる。

「わかんない。でも…良くない。」

「え?」

この小屋にも楓が貼った護符に加え、阿蘭も(まじな)いをしていった。多少の気は通さない。

だが_

(やばい。)

神経を研ぎ澄ませて感じ取る粘つくような嫌な気配は、山のものではない。この付近に集結してきているようだ。ガタ、ガタ、と不自然な間隔で小屋が揺れ始める。

「なに…?夕立?」

さすがに杏も不安そうに辺りを見渡す。

「違う。これは…_」

「吽蓮!開けろ!」

ドンドンと小屋の扉を叩く音がする。

「阿蘭さん?はい…!」

必死な様子の阿蘭の声色に杏がすぐさま駆け付けて扉に手を掛ける。

(蘭…違う!)

声は確かに阿蘭だ。だが阿蘭は自分の事を『吽蓮』とは呼ばない。

「ダメだ、蘭じゃない!」

「え…っ?___!!」

普段聞かない吽蓮の大声に杏が驚いて振り返ると同時に杏が開けようしてほんの少し開いた隙間から何かが小屋に流れ込んできた。

「逃げて。_早く!」

「あ…蓮くん…楠が…」

吽蓮の背後で流れ込んだ負の気を一気に浴びた楠が変容する姿を目にした杏が恐怖に固まる。

「走れ!」

「ッッ…!!」

鬼気迫る表情の吽蓮に杏が弾かれたように走り出した。

グルルル…

振り返らなくてもわかる。楠が完全体に成ったのだと。

「楠…」

ゆっくりと向き直る。ある程度まで大きくなったまま止まっていた筈の楠の身体は息を呑む間に膨れ上がり大きく、凶悪な様相になっていた。

こうなる予測も阿蘭はしていた。

『もし、楠がそうなったら…』

口を酸っぱくして言われていた。

『人里には下ろすな。楠が死んでも…お前が死んでも、な。』

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