誰
「痛って……」
斜面を滑落した喜助と柾は、途中の斜面にぽっかりと空いた穴へと転がり落ちていた。
おかげで蝙蝠達の気配は遠い。
先に起き上がった喜助が、柾を睨みつける。
「柾!お前余計なマネすんなや!」
庇われたのが、癇に障る。だが、柾からの反応はない。
「どないしたん?」
柾に近づくと、目立った外傷はないが彼は気絶していた。
喜助を庇って妖蝙蝠の強烈な一撃を受けたのだろう。
「柾! 喜助くん!!」
柾を穴の奥へ移し、ひとまず胸を撫で下ろしたところで、楓の声が耳に届いた。
楓の性格からして、今の状況では慌てて斜面を降りて来かねない。
「楓ちゃん、心配しなや! そこで待っとってくれ!」
「喜助くん!?無事?」
「坂に大きい横穴があってな、運良く二人そこに転がり込んだんや! ただ柾が――うわっ!」
穴から顔を出して声を届けようとした喜助の鼻先を、妖蝙蝠が掠めた。
咄嗟に刀を探す。
(あった……!)
横穴の少し先、斜面に刀が落ちている。
「……」
そっと穴の入り口から顔を出し、蝙蝠達の様子を窺う。
蝙蝠達は塊になって上空を旋回していた。互いに出方を探っているのだろう。
(しくじったら、一巻の終わりやな)
慎重に、刀までの距離とタイミングを測る。
気をつけるべきは妖蝙蝠だ。
旋回して一番遠ざかった瞬間を狙うしかない。
(今や!)
喜助は横穴から飛び出した_が、その襟首を何者かに掴まれ、あっさりと穴の中へ引き戻された。
「柾!さっきから何やねん!邪魔ばっか_」
反動で尻餅をつき、苛立ちを抑えきれずに後ろを振り返った喜助の目に映ったのは、柾ではなかった。
「まさき?……ああ、そこの童か」
暗がりの中でも際立つ見事な銀髪。
「あんた……誰や?」
「ふん。気配も読めぬ者に名乗る名など無い。」
「何やて?!」
露骨な侮蔑に、喜助はカッとなって立ち上がったが、その途端、あることに気付いて言葉を飲んだ。
「……妖か?」
「気付いたところで、もう遅い。目の前の妖にばかり気を取られて背中が隙だらけとは、破魔の里の名が泣くな」
見下すような視線。
今まで背後にいたのに、これほどの妖気に気付けなかったことに、喜助はぞっとした。
肌が粟立つほどの妖気だった。




