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「っ……たた……」


土まみれの着物を払いながら、楓は立ち上がる。

かなりの高さから滑り落ちたが、幸い大きな怪我はないようだ。


辺りを見渡すと、これ以上坂は続いておらず、小さな川が流れている。

滑り落ちてきた斜面を見上げる。暗闇の中、数尺先から霧が立ち込め、上の方は霞んで見えない。

何かに区切られているような、不自然な霧だ。

「喜助くん! 柾!」

呼び掛けてみるが、返事はない。

喜助は横穴に転がり込んだと言っていた。自分の方がさらに下へ来てしまったのだろうか。

喜助の口ぶりからして、柾の身に何かあったのは間違いない。

楓は湧き上がる焦りを抑え、二人の気配を追おうと飛燕を呼び出そうとした。

「?……飛燕?」

反応がない。

何度呼んでも、飛燕の気配はまるで感じられなかった。

「……どうなってるの?」

首を傾げながらも、楓は霧の中へ踏み入れようとする。

「それ以上進まない方が身の為よ」

どこからともなく声がした。

さっきのことが思い出し、楓はまず足元を確認する。

「あら、一応学習してるじゃない」

くすくすと笑うその声からは、敵意は感じられない。

妖特有の気配を辿ると、一本の木に行きつく。じっと見つめていると、カサカサと音を立てて、一匹の白い蛇が姿を現した。

先ほど楓が踏みつけていた蛇だ。

「あなた、さっきの……!」

「謝らないわよ」

楓を滑落させたことを言っているのだろう。

楓も、自分が思い切り踏みつけた自覚はあるので、特に腹を立てる気にはならなかった。

蛇の方も、一応は悪いことをしたとは思っているらしい。

「何見てんの?」

「思い切り踏んでたから、怪我してないかと思って。……大丈夫そうね?」

返事の代わりに、白蛇は声を立てて笑った。

憎まれ口が叩けるくらいだ。大きな傷は負っていないのだろう。

「進まない方が良いって言ってたけど、どういう意味? 私、行かなきゃいけないの」

「そのままの意味よ。今はアレに引っ張られやすい時期なの。朝が来るまでお待ちなさい」

“引っ張られやすい”――あまり聞き慣れない言葉に、楓は首を傾げる。

「そうね、人間は目に見えるものが全てだものね」

知らないのは当然、とでも言いたげに蛇はそっぽを向いた。

これ以上話すつもりはないらしい。

「あ、待って!」

「忠告はしたから。あとはあんた次第よ」

木をするすると下りた蛇は、霧の中へと姿を消した。

一人残された楓は、その白蛇の消えた方向を見つめ、しばし思案する。

そして、覚悟を決めるように息を吸い込み、自らも霧の中へと足を踏み入れた。

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