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足元の感覚だけを頼りに、楓は一歩ずつ霧の中を進んでいく。

深いと思っていた霧は、しばらく進んでみると、嘘のように晴れた。

白蛇の姿はどこにも見当たらない。

言葉を話すところを見ると、白蛇は妖なのだろう。

(……白鴉と会った時は鴉が喋ってびっくりしてたのに。)

すんなり妖と認識して受け入れてしまった自分に苦笑いが漏れる。


(いけない、二人を探さなきゃ)

一度だけ深呼吸をして、楓は自分が落ちてきたであろう斜面の方向を見上げ――絶句した。

「え? 無い……?」

見上げた先にあるはずの坂が、どこにも見当たらないのだ。

元からそこにあったかのように、草と木々が生い茂り、上空にはぽっかりと満月が浮かんでいる。

(満月……さっきまで細い月だったのに)

今まで自分がいた場所とは違う――そう直感し、楓は慌てて周囲を警戒する。


「汚いね。人間はあんなにも汚いのに、どうしてあのお方は気付かないんだろう」

聞き覚えのない声がした。

楓は気付かれぬよう身を低くし、木陰に身を隠す。

がちゃがちゃと重い金属のぶつかり合う音が響く。

そっと覗いてみると、甲冑を身につけた武士の一団がこちらへ向かって歩いてくるところだった。

「見て、リン。今から戦へ行くんだ。自らのさもしい欲望を満たすために、同胞を道具のように使い、同胞を殺めるんだよ」

「……」

“リン”と呼ばれた相手から返事はない。

「あの汚さ。気付かせてあげるのも一つの手だけど、あのお方の失望した顔はあまり見たくないなぁ……」

「何を……考えてるの?」

何かを含んだ物言いに、“リン”がようやく口を開いた。

「こうしてやろうと思って」

言い終えるのとほぼ同時に、地の底から突き上げるような轟音が響いた。

地面が大きく揺れ、土煙が舞う。楓も危険を察して身を低くし、近くの木にしがみついて目を閉じる。


「__何を……!?」

地割れのような音、木々が軋む音、その中で“リン”の声が聞こえた。

恐る恐る目を開けると、言葉を失う。

先ほどまで武士たちが歩いていた地面ごと、何もかもが無くなっていたのだ。

思わず駆け寄ると、地崩れを起こし、岩と土砂の中に甲冑の一部が埋もれているのが見えた。

「この山は、隣国との戦に使うには有利な位置なんだ。これで馬鹿げた戦が一つ減ったね」

「……」

「あのお方には、内緒だよ?」

声の主の顔がはっきりと見える。

目を引くほど美しい真っ黒な髪をした、柔和な表情の青年だった。

引き起こした光景とを結びつかない笑顔に、楓はうっすらと寒気を覚えた。

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