夢
先発より随分と遅れて里に戻った楓たちは、勝手な行動を咎められることはなかった。
最初こそ夜の山をたった三人で彷徨うなどという無謀な行動に釘は刺されたものの、無事に帰ったこと、そして久しく聞かない全ての盗品回収に里の人間は喜んだ。
通常なら一度捕らえた盗人を引き渡し里へ戻り、もう一度盗品回収の依頼を受けてから再び山に入る。
そうなると、辿る気配も薄れて全てを回収するのは難しい。依頼側もそれは理解してくれているが、やはり全て揃うに越したことはない。
狐の嫁入りの晩で他の妖も大人しかった上、その日の内に探した為に盗人たちの“気”がまだ残っていたおかげで使妖も見付けやすかったのではないかと柾が言っていた。
昼過ぎから合流した仲間と共に盗品の選り分けをし、上の衆に引き継ぐ。
口では無謀だの、若さ故の青い行動だとぼやく衆の者達も予想外の結果に嬉しそうだった。
問題は朱音だ。
反対している任務に出、そして一晩帰らなかった事に大層怒るだろうと楓は覚悟した。
「遅いお帰りで。」
「…ただいま。」
だが予想に反して小言はちらほらあったものの、厳しく咎められることはなかった。
不思議に思って侍女たちに聞いてみると、柾が使妖を使って逐一自分たちの安否や状況を里の仲間へ知らせていたのだという。
(こうした方が煩くなくて良いかも…)
柾の機転にこれからの希望も感じつつ、楓は一晩眠っていない分を取り戻すべく、傾く太陽の赤い光を瞼の奥に感じながら眠ったのだった。
眠りに落ちてしばらく、楓は夢を見た。
近くを流れる小川のせせらぎを聞きながら、髪の長い女性が何か話をしている。相手は大きな犬と猫のような生き物だ。柔和な表情で時にその猫に微笑みかけている。
(綺麗な人…)
ゆったりと立ち上がったその女性は二匹の獣を連れて歩き出した。向かった先は神社のようだ。まだ真新しい鳥居が立っている。中には数人が参拝に訪れており、神主と話をしたり、供え物を持ち祈りを捧げている。
参拝者たちは、傍に居る女性の存在はまるで見えていないようだった。だがそんな事はお構いなしにその様子を慈愛に満ちた眼差しで見つめ、すれ違う参拝者たちに会釈をしている。
(この場所、見たことある。少し違うけど確か…)
考えようとする楓を避けるようにふっと辺りの風景が消え、女性だけがこちらを見ていた。周りに獣達の姿は見当たらない。
女性は楓の姿が見えているようで、こちらに向かって何か必死に訴えているが、いくら耳を澄ましても声は聞こえてこない。
(ごめんなさい。あなたの声、聞こえない。)
そう言う自分の声すら、楓の耳には届かない。
女性は表情を曇らせ、背を向けた。
「待って…。待って、涼水さん!」
自分の声にハッとして目が覚めた。表はまだほの暗い。
(今、私何て…?)
さっき見た不思議な夢を思い出そうと試みるが、指の間から砂が落ちるように記憶が逃げ出していく。
静まり返った周りの様子から自分が眠っていた時間を何となく認識した時には夢を見たことしか記憶になく、内容はすっかり忘れてしまったが、少し胸騒ぎを覚えた。




