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翌朝。

破魔の里の人間は事前に分けられた班の仲間と共に巡回へ出発した。

最初に依頼があり、藍たちが謎の存在と接触した場所やその付近は里の第一線で動く者達が見回るため、楓達は現場から少し離れている朧山の中腹付近を回る。あまり危険がないとされているからか、組まれた班の仲間も喜助、柾、杏と慣れ親しんだ顔ぶれだ。

「え?家族は同じ組み合わせで班分けされんの?」

「何かあった時に、家族がまとめて怪我したり死んだりしたら、残った側の負担がデカいだろ。」

「あー、何か聞いた気がするわ。俺、関係ないし流しとったけど。」

見回りながら雑談をする喜助と柾の後を、杏、そして楠が歩いている。

(流風のところに行ければ良いんだけど…)

仲間たちの会話を聞きながら考える。

杏と柾は流風を知らない。連れて行ってしまって良いのか、それとも、目を盗んで一人流風の元へ行くべきか。

「楓ちゃん?」

「……、あ、ごめん。なに?」

ハッとして顔を上げる。

「さっきからぼんやりしてるから…どうしたのかなって。」

杏も楠という使妖を得たことで、里の仕事に出る機会が増えていた。以前こうして行動を共にした時より不安が無さそうに見える。

「ありがと、ちょっと考え事してただけ。」

歩く山道はいつもと変わらず穏やかそのものだ。藍が話していたような動く植物が出るとは思えない平和さだ。

「人間でも妖でもなくて?動く草?全然想像出来へんわ。」

「変に先入観持たねぇ方が良いんじゃね。」

「せやなー。何か変なの居ったら杏ちゃんのその…楠やっけ?反応するやろしなぁ。」

喜助の言葉に杏が頷いて楠の頭を撫でる。

「杏ってさ、犬苦手じゃなかったか?そんなんならウチのテツとも遊んでやってくれよ。」

「が……んばる、ね…」

杏の中では楠は別枠らしい。途端に弱気な声になる杏に柾が声に出して笑った。柾に昨日のような沈んだ様子はもう見えない。もしかすると、もっと前から一人悶々とした気持ちを抱えていたのを上手く隠していたのかもしれない。

「柾、何か思い出したりしない?小さい頃の…」

「あんな何年も前の事、そんなすぐ思い出せるわけないだろ?」

「でも普通に考えたら印象に残る事じゃない?」

先頭を歩く喜助も同じ考えなのだろう、ちらりと振り返り柾を見た。

「そんな事言ったらさ。お前が昔、羽根が取れたトンボ助けようとして糊持ってきたの覚えてるか?」

「…え?知らない。」

喜助と杏が思わず吹き出す中、楓はぶんぶんと首を振った。

「私、そんなこと…!」

「したんだよ。ビビり過ぎて俺は覚えてる。ガキの頃なんてそんなもんだろ。他のやつが覚えてても本人はケロッと忘れてるもんなんだよ。」

無理矢理納得させられたような感覚だが、思わず頷いてしまった。柾から新たに何か情報を聞き出せたりはしなさそうだ。


ワン!

楠が一声鳴いた。何かを察知したのだろうか。

ハッとして全員が楠を見るが、楠は一点を見つめて尻尾を振っている。

「何か…来るな…」

全員が足を止めているはずなのにザクザクと足音が聞こえてくる。

(…あ。この気配…)

何かに気付く楓を他所に喜助がいち早く刀を抜いた。

茂みの中から現れたのは、一匹の獅子の姿だった。

「蓮くん!」

妖の出現に気を引き締めた喜助と柾の後ろで杏が嬉しそうに名前を呼ぶ。

「ちょっと、吽蓮…何してるの?それ…」

茂みから完全に出てきた吽蓮の背には知らない人間が乗せられている。

「…何でここにいるわけ?」

「私が先に聞いてるでしょ!」

問いを無視して杏に話し掛ける吽蓮に早速噛み付く楓。喜助と柾はよくわからない展開に怪訝な顔をしながら見守っている。

「蓮くん、その人…誰?」

「人じゃない。」

「え?なら…あ、妖?」

「妖でもないみたい。」

「「!!!」」

淡々とした吽蓮の返事に、今度は四人ともが返す言葉を失った。

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