水
「良いか蓮。それは拾ったとは言わない。」
「あ。引き上げた?」
「………もう良い。」
吽蓮が連れてきた青年は呼び掛けても揺さぶっても目を覚ます様子は無かった。例えるなら病人のように、時折魘されては譫言を口にしてまた深い眠りに落ちてしまう。
「もう死ぬ?」
「縁起でもないこと言うな。」
(何だこの男…形は人間だが…人間じゃない。…妖でも、ない。)
妖。人間。そういった身近なものではない。だが、初めて触れる気もしない。 この社に流れていた、遠い昔傍にいた存在感に似ている。そんな気がした。
吽蓮の話からすると池に落とされてからもう随分経つらしい。怪我をしている様子も、頭を打った様子もない。
(何でこんなに弱っているんだ?)
「みず…… く、ない…」
聞き逃してしまいそうな小さな声で男が喋った。
「……もしかして…」
(涼と一緒の…?)
「うぅ……」
ビシャッ
「おい!」
阿蘭が一つの答えに達しようとしたところに、吽蓮が男の顔めがけてお椀いっぱいの水を掛けた。
「“水下さい”、って。」
「違う、こいつは“水は良くない”と言ったんだ!」
「あー。」
慌てた阿蘭が傍にあった手拭いで水を拭うが、男は更に朦朧としてしまった。
「良いか吽蓮、こいつは…いや、今は良い。こいつを白鴉さんのところへ連れて行くぞ。」
「何で?」
「あの人なら対処してくれる。それに、ここはこいつに合わない。」
意味がわからない。そう顔に書いてあるような吽蓮の目をしっかり見返す。
「こいつは、精霊だ。」




