池
和泉の“葬式”当日も、式を終えた次の日も、その次の日も、吽蓮は気配を探りながら山を歩き回った。
あの植物の塊を見つけるためだ。
しかし、ほとんど休み無く歩き回って探しているのにもかかわらず、あの謎の存在と相見えることはなかった。
ただ強力な妖が通りすがっただけだったのかもしれないし、妖の成りかけが成妖になる瞬間を見ただけなのかもしれない。
無駄に探し回るのはやめ、しばらく空けていた社に戻る。そうして、ただごろごろと寝転がっていた。
阿蘭はどこで何をしていたのか、昼まで寝るな、などとぐちぐちと小言をぶつけてきたが、生返事をして自分の記憶の片隅に蠢くあの植物の事を考える。
敵意は無かった。だからといって友好的な空気も無かった。
きっとこちらの出方次第でどちらにも転ぶ。
(…戦ってみたい。)
その気持ちを話せば止められる。それがわかっていたからこそ、一人で探していたし、七尾から流風、そして白鴉の耳に情報が届かなければ良い。 そうとまで思っていたが、見つからない時間は少しずつ吽蓮の熱を冷ましていった。
欠伸をしながら眠気に誘われて再び瞼を下そうとしたその時、遠くに感じた気配に跳ね起きた。
(出た。)
「蓮、どうした?…おい!」
阿蘭の言葉を歯牙にも掛けず、起きた勢いでそのまま表に飛び出し社の屋根に上がる。
勘違いするはずが無い。しっかりと記憶して、探し求めたあの気配だ。
気付いた時にはもう走り出していた。目的は一つ、数日前に見た不気味な植物たちだ。
……!__…
(あそこか。)
気配を辿って山を駆け抜けていくと、何者かの声が聞こえてきた。
誰かに向かって何かを必死に訴えている。そんな声色だ。
耳を澄ませながら、走るのは止めない。
(見えた…!)
吽蓮の視界に蠢く緑色が飛び込んできた。
以前見た時より更に大きくなっている。そんな気がした。
葉や蔦といった緑色だけでなく、木の枝や根まで生き物のように蠢いている。
「やめなさい!そんな事をしたって誰も…っ」
声はどうやらこの植物と戦っているらしい。吽蓮の見えない場所に向かって植物たちが攻撃を繰り出している。
(倒されたら困るんだけど。)
声の主からも、相応の力を感じる。まかり間違って探し求めたこの目の前の植物を倒されてしまったら堪らない。
吽蓮はまず標的を変えた。
植物たちが牙を剥くその先。
何か印を結ぶような動きをしたその人物を
「邪魔。」
「!!?」
突き飛ばした。
ドボンと音がして、傍に池があったのに気付く。
「何を…ちょっと…!」
落ちたところで、その池が足の付かない深さではないのを知っている。無視して植物と向き合う。
「何者?言葉、通じるの?」
池に突き落としたその青年はこの目の前の塊に話し掛けていた。同じように声を掛けてみる。
様子を窺うようにぴたりと攻撃をやめたその植物は、どうやら言葉を理解しているらしかった。
突然現れた吽蓮が敵か味方かを見極めようとしている。そんな雰囲気だ。
ゴボッ
背後から大きく泡が弾ける音がした。
「?」
振り返るとそこには、膝上程度の池に沈んでいる青年の姿があった。
「やば。死んだ。あ……チッ…」
意識が池に向いた。その隙を突いて植物たちは素早く後退していったのだった。




