塊
目を凝らした先に見えたのは、蠢く植物だった。
(妖…?)
気配がわからなかった。
人間の気配なら警戒心が湧き上がる。妖の気配でも気付けるはずだ。
知らない気配ではない気がする。自然と感じていた、気付き損ねている。そんな言葉が妥当だろうか。
「何じゃ?蔦女か?この辺りに居ったか?」
ズルズルと移動する植物が見えたのだろう。傘狸が後ろで呟く。吽蓮は黙って首を振った。
どこかへ向かう植物の塊は、周りの草木を少しずつ巻き込んで大きくなっている。
妖の動きではない。
「吽蓮!翁面一緒に探そうよ〜!…吽蓮?……何、あれ…」
付喪の面を探す手伝いを頼みにきた三尾もまた、吽蓮の視線の先へ目を奪われた。
「傘狸じいちゃん…あれ、手出したらマズイ類のヤツっスよね?」
「そうだの、ここは見るに留めて…これ!吽蓮…!」
止める傘狸の声をよそに、吽蓮はスタスタと蠢く植物の方へ歩き出した。
吽蓮を動かすのは未知の、そして強そうな存在への好奇心だけだ。話が通じる相手なのかもわからない。ただ無言で距離を詰める。
ビタリと動きを止めた植物たちに、自分を認知されたと理解する。
「……。」
歩みは止めない。
固唾をのんで見守る傘狸たちの視線を背中に感じながら、感覚で測る間合いの中へ踏み入ろうとしたその瞬間__
「!!」
音も立てずに目の前の植物たちが爆ぜるように四方八方へ散った。
まるで追手を撹乱させるような野性的な動きだった。
目を閉じなかったはず。しかし
(消えた…?)
跡形もなく居なくなった大量の植物に、吽蓮は久し振りに血が湧く心地がした。
「何だ?今の。デカい蔦女か?」
「蔦女!流れてしまった私の浴衣の中身を増やしてもらおう!」
植物が散る場面だけを見た烏天狗たちが呑気な声を出す。
「この辺りにそんな強力な蔦女は居らんはずじゃ。あれはきっと別の…白鴉さんに報せた方が良いかもしれん。」
「オレは行かない。」
楓と鉢合わせる可能性が高い。
「俺も白鴉とは合わねぇんだよな。同じカラスなのによ。」
「あの人、本能が何だとか言って私の藁を毟るからなぁ…」
吽蓮に続けと言わんばかりに烏天狗も付喪神も苦い顔をする。
「え、ぼく?…傘狸じいちゃん!」
「年寄りを動かすな。それに、お前さんなら直接会わずとも七尾に伝えれば良かろう。」
視線を一手に集めた三尾の助けを傘狸はひらりと躱しながら助け舟を出す。
「七尾姉ちゃん?」
「そうじゃねぇか、七尾さんに伝えといてもらおうぜ。家帰ったら会うんだろ?俺らはまず、ずみさんの“葬式”やらねぇと。付喪もこんなスカスカじゃずみさんに笑われちまう。中身になるもの探そうぜ。」
「さすがは竹馬の友!豊満な身体に頼む!」
「はぁ…」
最もな意見に尻尾をしょんぼりと垂らしながら三尾が頷いた。
「蓮、ずみさんの“葬式”、来いよな。付喪、お前いい加減歩けよ」
「たわけ!この状態の私が自力で歩いたら藁が全部抜け落ちる!」
「とりあえず、姉ちゃんに会ったら伝えときます…」
騒がしい三人を見送り、辺りに静寂が訪れた。
「何だった?あれ…」
「わからん。」
答えながら見上げた吽蓮の目は好奇心で満ち溢れている。
「触れて良いものかもわからん。深入りせん方が良い。」
吽蓮は傘狸の言葉に頷いて答えた。
(気配、覚えた。)




