戯
数日前。
吽蓮は暇を持て余した妖たちと力比べをしていた。
修練や鍛錬の類ではなく、ただの退屈しのぎの遊びだった。
その日も、吽蓮が以前負かした妖達が再戦を申し込みにきたから付き合った。それだけだった。
「いったぁぁっ!!」
大声と共にバシャンと水飛沫を上げて案山子が川に落ちた。
「おぉい!付喪!ヘマすんなよなぁ!」
「やっぱ強いスね、吽蓮は。」
「お主ら感心するのは良いが、付喪が流されとるぞ。」
愉快そうに彼らの小競り合いを見ていた傘狸が指す先にはふかふか浮かびながら流されていく案山子の姿がある。
「あーぁ。おい三尾、助けてやんな。」
「え?僕っスか?テンさん行って下さいよ〜…濡れるの苦手なのに…」
じろりと睨まれ、渋々川岸を走っていく三つ尾の狐の後ろ姿を目で追いながら、烏天狗が吽蓮に向き合う。
「完敗だ。ずみさんの葬式で御前試合は諦める。」
「まずその賭けに乗ってないけど。」
「ん?そうだったか?まぁ良いだろ。ただな、顔は出せよ?お別れだからな。」
和泉の死は一瞬で妖達に広まり“葬式”を催す運びになった。和泉を知る者たちにその報せも回ってきたが、吽蓮はあまり乗り気ではなかった。
「死んだヤツに会ったって…」
(起きてるアイツに会うのもやだけど。)
吽蓮たちの住む社へ幾度も訪れ、阿蘭を捕まえてほぼ一方的に話をしていた和泉。吽蓮は阿蘭を囮に避けていたが、それでも絡まれる時はあった。縁が無かったわけではない。ただ、“葬式”の意味がわからなかった。
「ずみさんは人間だから人間の送り方、してやんだよ。それが弔いってもんよ。」
「……。」
吽蓮は納得のいかない表情のまま、口を開かなかった。
「テンさ〜ん!付喪さんがバラバラんなってくんスけど〜!」
三尾の泣き言が聞こえてくる。見ると、びしょ濡れになった三尾が藁の巻かれた支柱とボロボロの浴衣を引き摺って戻って来るところだった。
「ほほ、水に落としたら衝撃も強くないだろうと思った吽蓮の優しさが仇になったの。」
痺れを切らして手伝いに行く烏天狗を見送りながら、いかにも楽しそうに傘狸が笑っている。
「付喪!お前そろそろ別の物に憑けよ!組み立て直すこっちの身にもなれ。」
「ふふふ…、私が山に立っているだけで人間の顔が引き攣り、動けば悲鳴を上げる。あの快感は何にも代え難い…」
「でもその怖い翁の面、もう流されてっちゃいましたよ?」
「なに!みっちゃん!後生だ!取ってきて!」
間抜けなやりとりをする妖をぼんやり見ている吽蓮。傘狸が覚束ない二足歩行で隣に寄る。
「行くか行かんかはお前さんだが…ちょいと変わったかの?」
「は?」
「前まで人間の話なんぞ聞く耳持たなかったお前さんが、ああしてあやつらの話を聞いて判断しようとしとる。やはり、人間の友を持った影響か?」
傘狸の言葉に、楠を連れた杏が過る。和泉も特殊だが、彼女も吽蓮が嫌う人間とはまた別の存在だ。
「別に。………?」
ふい、と目を逸らしたその先。
視界の隅に、何かが動いた。




