拾
和泉の“葬式”を終えてから数日。
阿欄は特に変わらない毎日を過ごしていた。知り合いの妖から和磨が和泉の暮らしていた山小屋の鍛冶場に居を移したらしいというのを聞いたが、様子を見に行ったり接触をしに行ったりはしていない。
「人間みたいにベタベタ手取り足取り助けたりなんかしないさぁ。宝も、ずみさんが一人前って認めた子だろう?」
式の終わり際、雪女がそんな事を話していた。本人が望みさえしなければ、関わらない。気にする者はこっそり見守ったりはしているらしいが、和泉から魅染の話を聞かされている妖は大体そうして距離を保つことで友の息子を守っている。
和磨が訪ねてくることもない。刀の問題も解決し、楓が転がり込んでくることもないだろう。
(これでしばらくは安泰、か。)
社殿の神棚にある花を取り替え、静けさに耳を澄ます。
鳥の鳴き声。
そよ風の吹く音。
木立のざわめき。
らん
遠くにある小川のせせらぎ
床に置いた枯れた花が転がる音。
蘭。
(…………。)
吽蓮の声だ。
そういえば、昼前に何かに弾かれるように飛び起き、目を輝かせながらどこに行くとも残さず出ていったきりだ。
顔には表さないが、犬ならば尻尾をぶんぶんと振り、猫なら瞳孔を真っ黒にしている。
そんな様子で社を後にした吽蓮。何か興味を唆られるものがあった割には予想していた帰宅時間より随分早い。
無視しようかと思ったが、どうせ無視したところで彼の居場所も社だ。
「蘭、開けて。手伝って。」
「自分で開けられるだろ」
「無理」
「?」
楠と戦って傷を負った吽蓮もすっかり回復している。社に入るのに助けがいるはずがない。
身軽な吽蓮が雨戸を開けたり、手伝いを要求するのは手が塞がっているからだ。
手が塞がっている理由で思い付くとすれば珍しい虫でも両手の中に収めているか、大きな獣を抱えているか。それとも…
(………。嫌な予感しかしない。)
「蓮、今度は何を拾ってきた?いい加減に__」
呆れ半分、怒りながら雨戸を開ける。
「…誰だ、そいつは?」
どうせまた動物の類を連れてきたのだろうという予測は見事に裏切られた。
「わかんない。拾った。」
社の外に居たのは吽蓮と、彼に支えられてぐったりしている男の姿だった。




