元
朱鷺を連れた喜助と合流し、特に行く当てもなく辺りを歩く柾。
「…てな感じで、人間の本懐がどうとか、小難しい話しとったわ。」
砂慈にされた話を喜助なりに飲み込み、簡略化して話されたため、内容はかなり端折られていたが、何となく言いたいことは伝わった。砂慈はたまにこうして独自の視点で人間そのものについて語ることがある。
「俺もたまに聞くな。ばあちゃん診てもらうようになって会う回数増えてるから。」
「ほんま?どう反応するか困らん?俺、あのまま話続いてたら頭から煙出るわ。」
「それはねぇけど…何か…」
穏やかで人当たりも柔らかく、里の老若男女から頼られる存在の里医者の砂慈。人の奥底まで見透かしているような目をする時があると気付いたのは、つい最近のことだった。
「…何でもない。」
「何やねん。」
(たまに怖いんだよな、あの先生。)
喜助の表情を見る限り、何とも例えがたい怖さを抱えているのはきっと自分だけなのだろう。漏れ出そうになった言葉は表に出さずそっとしまった。
「…話さん方が良い。」
「「え?」」
二人で挟むように歩いていた朱鷺が静かに口を開いた。
「大人達に話しても、良い方へ転ぶとは限らんからの。忘れるのが、一番なんじゃ。柾が噓をついてないのは、ばあちゃんがわかっとるから。」
朱鷺に柾の認識がある。その変化に柾本人も喜助も口を挟まず朱鷺の言葉を待った。
「………はて。柾はどこに行ったかの?また迷子になったら大変じゃ。蘇芳、探しに行かにゃねぇ。」
朱鷺が言っているのは今の柾ではない。喜助もすぐに理解した。
「………帰ろうぜ。」
がっかりしたような、悔しさを噛み殺すような柾の横顔を見ながら、喜助は何も言えなかった。
自分の場合、祖父とは離れて暮らしていた。介護が必要になり共に暮らし始めたものの、それまでは頻繁に会っていたわけではない。
柾はずっと朱鷺と生活を共にしていた。
立場の違う人間の慰めは、当人には届きにくい。
里を失った時。周りから掛けられた言葉が自分には全く響かなかった。
そんな過去の記憶が喜助の口を閉ざした。
「夕飯、何やろなー?」
「知らね。父さん、今日居ないし、適当じゃね?」
やや強引に方向転換をした呑気な言葉に返ってきたのは、よく知る柾の声色だった。
今更な事なのですが…
見直してきたら1話まるっと投稿し損ねていたのを発見して慌てて前後編集してep71に投稿忘れた回をねじ込みました。今更大変申し訳ありません…
今の章にはあまり干渉してきませんが、気になる方はご一読下さいm(_ _)m




