忘
「…ってわけで、よくわかんないまんま帰ってきて現在調査中…みたいな?妖にしてはそれっぽい気配も無いし、操る植物の規模が大き過ぎ。謎なんだよねー。」
「………。」
__もしこの先、君達の持つ技術や知識で対抗出来ない存在が現れたら__
流風の言った通りのことが起こっている。確証はないがそう、思った。
「どした?怖い顔して。大丈夫よ、よくわかんないけど、一応はその蔦女もどきも退いてったから。その内また行くけどさ。」
(何が起こってるの…?)
拭いきれない不安を胸に溜めながら、忘れない内にもう一つの聞きたいことを藍にぶつける。
「あの…あと、柾が言ってた、っていうのは…?」
「それ?ずっと昔の話なんだけど、一回マサが山で迷子になったの、覚えてない?」
藍の問いにふと、幼い頃の記憶が引き出される。
「あ、かくれんぼしてたら居なくなっちゃったやつ?」
もう殆ど朧気な記憶だが、友達と遊んでいた筈の柾が居なくなったと里中が大騒ぎになったことだけは記憶の片隅にある。
何がどうなったのか、次の日の夕方にはケロリとした顔の柾が藍と共に迷惑を掛けた家々を回っていた。
「そうそう。霧が出てて楽しそうとかいってやんちゃ坊主たちがかくれんぼしてたやつ。隠れたまんまマサがどっか行っちゃったとか言われて大探し!まさかと思って里の外に探しに行ったら、中腹にあるデカい枯れ木の洞で寝てて、ド叱ったわ。」
苦笑いしながら聞いていたが、同年代に比べてそこまで無茶をしたり冒険したりしない柾が一人里の外に出たのを不思議に思った。
「あの子、珍しく反論してきてね?自分は外に出てないって言うの。出てんの!って事実言ったら伝家の宝刀、だんまり。怒れちゃって…でも探し回って行き違うより良かったからそれだけは褒めたのよ。そしたらね…」
「俺、一人じゃなかったから。ずっと遊んでた。」
噓だなんてこれっぽっちも感じられない眼差しで幼い柾はそう言ったのだ。
「は?誰と?」
「知らねぇ。名前聞くの忘れた。」
「人?もしかして、妖?」
藍の問いに柾は首を振った。
「違うって」
「何が?」
「わかんない。」
幼い柾は困ったように眉を下げた。
「人じゃないし、妖でもないって言ってた。」
「え……?」
さわさわと得体のしれない何かが横を通り過ぎていく心地がした。
「俺、噓ついてないよ?本当にそう言ってたし、本当に一緒に遊んだ。」
明らかに怪訝な顔をした母、藍に向けて口を歪ませる柾。
「わかった。疲れたでしょ?早く寝なさい。また明日詳しく聞くから。」
「………。」
少し不満げに頷き、柾はごそごそと布団に潜っていった。
(狐か狸に化かされたかぁ?明日聞くしいっか。…探すの手伝ってくれたご近所さんに改めて謝りに行かないと…)
すぐに寝息を立て始めた柾を残し、居間で待つ夫の玄の元へ戻る藍。
「んー…狸か狐、か?」
柾に聞いた事をそのまま話すと、藍と同じように首を傾げた。
ほんの僅かな時間で柾から聞き出した情報ではその程度だった。一晩置いて、柾からしっかり話を聞こう。そう結論付け、迎えた翌朝。
「…覚えてない。」
「誰と遊んだのかも?」
「うん。」
「は?!」
困ったように目を泳がせた息子の様子に、夫婦揃って目を丸くした。




