信
その後、詳しく聞こうとしても流風は“まだ確証がない”とその件について口を開こうとはしなかった。
流風はもちろん、白鴉からも何も聞き出せそうになく、あまり居座るのも良くないと二人は家路に着いた。
「なぁ…あの兄ちゃん、何モンなん?」
「流風?」
「…名前は知っとる。」
ザクザクと落ち葉を踏みながら歩く二人の話題は自然と流風になっていた。
「私も、あんまりよく知らない。」
流風はあまり自分の話をしない。どこに住んでいるのか、何故妖の知り合いが多いのか、特に何も無いあの古木の元によくいる理由も、楓は何も知らない。
「そもそも何で知り合ったん?」
「うん、と…それは…」
きっかけは楓が祖父の言葉に自暴自棄になって山の深みに立ち入ろうとしたところを流風が止めた事からだ。どこから話せば良いものかと少し考えたものの、変に隠しては流風が怪しい人間の扱いをされそうで全てを話した。
「いたっ」
まず来たのは言葉ではなく肩への軽い衝撃だった。
「ちょっと、何で叩くの?ちゃんと話したのに。」
思わぬ仕打ちに楓が不満を露わにする。
「誰にも相談せずそんな事するからやアホ。」
「………。」
思いの外静かな口調で返ってきた言葉に、楓は返す言葉が見つからなかった。
「で、何かあるとああして駆け込むようになったん?」
「うん、まぁ…そんな感じ。」
思えば以前に比べれば随分とこの山に抵抗なく足を踏み入れるようになった。興味も薄かった妖と隣人のような感覚で言葉を交わし、知り合いが増えていくのは間違いなく流風の影響だ。
「大丈夫なヤツなん?その…信じて。」
「え?うん。」
「根拠は?」
「嫌な感じがしないから?」
言葉での説明を求めた喜助だったが、感覚での言葉が返り頭を掻く。
「そんだけ?」
頷く楓に更に喜助が盛大に溜息を吐いた。
「まさかそんなガバガバな警戒心とは思わんかったわ。」
「でも、もし流風が悪い妖だったら…私とっくの昔に死んでるよ?」
いつしか流風にすっかり心を許している自覚はある。楓が無防備な場面はいくらでもあった。
「…そうやけど…もしかしたら何か企んどって、良い奴のフリしとるかもしれんやろ?」
「企むって?」
「それは…知らん、けど…」
最初の勢いを失っていく喜助の肩を、今度は楓がポンと軽く叩いた。
「やめよ。それこそ確証がないし、考えても仕方ないよ。」
流風が使った言葉を使った事により思い出されるのは、彼が言っていた、自分たちが対抗できない存在の事だ。
(そんなの、本当に存在するのかな…)
少なくとも楓は見たことはおろか、聞いたこともない。
もしかすると、里の中にはそれを知る存在がいるかもしれない。
楓の中で一人の顔が思い浮かんだ。




