慮
「ともあれ、お前か何か動いたところで刀鍛冶の息子が関わりを持とうとすれば止められるものではないだろう。」
「君がそれを言うのも奇妙な話だね。」
当初、楓が流風と関わるのを良しとしていなかった白鴉の言葉に流風が笑みを零した。
「きっと、彼は君以上に人の怖さも知っている。そう心配せずとも上手く立ち回れるはずさ。」
流風は穏やかにそう話し、まだ妖と関わっていると決まったわけではないしね、と付け加えた。
「納得したのなら小僧を連れて里に戻るんだな。」
フン、と鼻で笑うと白鴉は再び古木の枝に向かって羽ばたいた。
「?小僧?」
楓が目を瞬かせる。
「上手く気配を消せていたようだが、隠れる必要はないよ。」
流風が少し離れたところを見ながら声を掛けた。程なくして姿を現したのは__
「げ…」
喜助だ。誤魔化しきれていなかったらしい。
「“げ”ちゃうやろ!何や一瞬泣きそうな顔したわ思ってついてってみたら爆速で道草かましよって。」
「…ごめん。」
「自分が原因で友人を魅染にするかもしれないと不安が溢れてしまったようだよ。」
流風の説明に喜助は苦虫を噛み潰したような表情をした。
「だから俺、言ったやん!求められたら助ける、それだけやろ?」
「だって…!ちゃんと大丈夫って思いたくて…」
尻すぼみになっていく楓の言葉に苛立つように頭を掻く。
「悪かったな、安心させたれんで。」
「ごめん…!」
「危うく猪のように畑を荒らそうとしていたぞ。」
「白鴉、うるさい!」
八つ当たりのように木の上をギロリと睨み、喜助に視線を戻す。喜助は不機嫌そうに細められ、そのまま流風へ視線を向けた。
「あんた…何者なん?」
「………。」
真っ直ぐな問い。流風がどう答えるのか。その興味が楓を黙らせた。
「それは、どういう意味だい?」
ふわっと吹いた風に靡いた髪を押さえながら流風が喜助を見返す。
「言葉のまんまや。」
「名前は__」
「名前なんて聞いてへんやろ!何者やって聞いとるんや!」
語気を強める喜助に流風は声に出して笑った。
「ふふ、失礼。君は自分が何者か聞かれたら“人間だ”と答えるのかい?」
「それ、は…」
「僕は流風。安心したまえ。僕が妖ではないかと怪しんでいるのだろう?僕は妖ではないよ。君達より少し妖の友が多く、あちらの世界の知識があるがね。」
淡い髪色に薄い色素、どこか浮世離れしていて謎も多い流風。
話に聞く和泉も妖の知り合いが多く、人間とも妖とも分類されない区分に居た。流風もまた、和泉と同じように人と妖の間を歩いているように見えた。
「ところで…逢霧草はどう咲いていた?ただ土と水を与えられ、何とか咲いていたのか。それとも、もうその地のもののように咲いていたか…」
「え…っと…そんなに元気なくは見えなかった、かな?」
「俺、この三日間あいつんち行っとるけど全然フツーに咲いとったな。」
「そうか…」
記憶を辿った二人が思い思いに答えると、ほんの少しだけ流風の表情が硬くなった。
「どうしたの?」
「いや…。」
「煮え切らんな。勿体ぶらずに言えや。」
突く喜助に楓も便乗して頷く。上から白鴉が鼻で笑う声が聞こえた気がしたが、視線を逸らさないよう見上げずにおいた。
「…これは杞憂かもしれないのだが…もしこの先、君達の持つ技術や知識で対抗出来ない存在が現れたら、迷わず僕に知らせて欲しい。」
流風の言葉に楓も喜助もすぐには頷けず、二人して目を合わせて首を傾げたのだった。




