人
花。逢霧草の効果で和磨が妖を正しい姿を認識し続けられることがないらしいのは理解した。
「じゃあ……」
楓は少しだけ視線を落とす。
「もし、和磨くんが妖に興味持っちゃったら?」
静かになった空気の中で問い掛ける。
和磨は元々妖がちゃんと見えていなかった。 けれど今は違う。
妖達の葬式を見た。 妖達の言葉を聞いた。 父がどんなふうに妖達と関わっていたのかも知った。
興味を持たない方が難しい気すらする。
「その時はその時だ。」
さも当然のように即答したのは白鴉だった。
「え?」
「何をそんなに慌てている。小僧が妖に興味を持つことの何が問題だ。」
「だって……」
言葉に詰まる。
魅染。
村八分。
和泉。
頭の中に浮かぶ単語は沢山あるのに、上手く形にならない。
「妖を知り、交流を持つ。それだけだろう。鍛冶屋の息子として認識のある妖と関わる事になんの危険がある?むしろ連中は好意的に接するだろう。」
「でも……」
「お前も一緒だろう。」
「え?」
言葉が止まった。
「ほんの一握りだが、この山の妖と顔を合わせ、名を知り、関わっている。」
「それは……」
「自分は良くて他者が妖と関わる事は危険なのか?」
返せない。
何も。
「白鴉。あまり意地悪を言ってはいけないよ。」
「……。」
白鴉はそれ以上追及しなかった。
代わりに流風が小さく息を吐く。
「君は__」
優しい声だった。
「人間が怖くなったのかな?」
その言葉に心臓が跳ねた。
「……」
否定しようとして止まる。違うと言い切れなかった。
穂高村の人々。
和泉の死を哀しまなかった人達。
魅染というだけで距離を置く人達。
“普通”の暮らしの中で、妖と深く関わる事の危うさを知ってしまった。
流風は責めることなく続ける。
「彼が妖に近付くことを恐れているのではなく、本当に怖いのは彼が人間から傷付けられること、ではないかい?」
楓は何も言えなかった。否定出来ない。
和磨を心配しているのは本当だ。それは妖と関わり危険が増えるからではなく、和泉のように線を引かれ、人間に拒絶されることを怖いと思った。
「…人を怖く思うとか…私も魅染なのかな。」
楓を見て、流風は少しだけ笑った。
「人間として普通の感覚ではないか。」
「え?」
「君は人として生きようとしているから、線引かれるのを恐れている。居場所が無くなるからね。気にせず生きる事だって出来るだろう?その和泉さんのように。」
靄がかかっていた気持ちがじわじわと晴れていく心地がした。
「その和磨さんが妖に興味を持ってしまったのを隠しているように思えたのだろう?もしそうだとしてきっと大丈夫さ。人間として生きるべく、魅染と誤解されないように振る舞っているのだから。」
静かな声。だが、その言葉は不思議と胸に落ちた。
「……そう、だと良いな。」
かかっていた靄が全て消えたわけじゃない。
けれど、少しだけ。本当に少しだけ呼吸がしやすくなった気がした。




