描
切羽詰まった様子で駆けてくる楓に流風はきょとんとしながら「どうしたんだい?」と迎え入れた。
「私…もしかしたら、魅染?魅染の予備軍?作っちゃったかもしれない…!和磨君、元々妖見えてなかったのに私が見せたいなんて思っちゃったから…、」
ここに来るまでの間に膨らみきった不安が一気に噴出したのか、息を切らせながら一息に話す楓の言葉を流風が受け取り返す間もなく楓が続ける。
「まだ見えてるのかな?隠してるとしたら、魅染になりそうだから?どうしよう!和泉さんみたいに村八分にされたりしない?」
「落ち着け小娘。感情で話すな。」
見上げると古木の上から白鴉が黒い瞳を細めて見下ろしている。
「慌てなくて良いから、順序を追ってゆっくり話してごらん。」
流風の静かな声にほんの少し落ち着きを取り戻し、頭の中で整理をしながらぽつぽつと事情を説明する。
魅染の刀鍛冶、妖が見えないその息子、妖達からの葬式への誘い。
既に聞いた話も流風は相槌を打ちながら静かに聞いた。
「あの日、白鴉が持ってきてくれた花を和磨くんが持ったら妖が見えるようになって、お葬式に出られて…あの花、もう殆ど枯れてたから安心してたの。でもっ、和磨くん上手に復活させちゃってて…!まだ見えるようになったままなのかな?魅染って言われちゃわない?私、畑荒らしてきた方が良い?!」
「落ち着いて。ほら、深呼吸したまえ。」
再び息巻いてくる楓の肩に手を置き、流風が促す。
「まず結論から言おう。あの花が件の彼に妖を見せる事は無いよ。だが彼が興味を持ち自ら妖の知識を入れ、理解を深めれば…見えるようになるかもしれない。」
「どういうこと?」
「元々、完全に見えていないわけではなかったのだろう?」
その言葉に思い返す。確かに、和磨は全く見えていないわけではなかった。
飛燕も、燕の姿には見えていなかったが“黒いふわふわした何か”として見えていた。
「そもそも、君たちに妖がしっかり見えるのもある程度の知識があり、理解があるからだ。だから彼も、知識を得たらあるいは…」
「何で知識が関係あるの?」
「お前は興味もない伝聞でしか知らん生き物を正確に思い描けるのか?」
木の根本に降り立った白鴉の淡白な言葉がとても腑に落ちた。
「君にとってただの炭でも、刀鍛冶の彼にとっては松炭、楢炭…と違いがわかるのと一緒さ。個人の世界の深さが、見えるものを変えているのだよ。」
「そんなものなの?」
「君たち破魔の里は特殊だからね。元々敏感で見えやすかった人も多くて幼い頃から知識を得ている。中には…しっかりと見えるようになるまで時間が掛かる人間も居るようだが、君はそれには該当しなさそうだ。」
楓が普通と思って見ていた妖の姿が和磨のように捉えきれていない場合もある。少し不思議な気持ちになりつつ、生前の姉・桜がある時から急に力を伸ばし始めたのも、もしかすると妖の理解が深まったからなのかもしれない。そう思った。




