出
戸を開け放つとそこには、突然の楓の来訪に目を丸くする和磨と
「…びびったわ。自分、元気通り越して野蛮やぞ。」
喜助の姿があった。
「喜助…何でここに?」
「え?刀見に。」
「見にっていうかもう語りに来てるじゃん。聞いてよ楓ちゃん。もうさ、喜助の刀のこだわりすごくてさ。」
知らぬ間に和磨と喜助は完全に打ち解けているようだ。聞くと、この三日間、彼は毎日ここに来ているらしい。
「俺、使ったことある刃物って包丁とか鎌くらいだからさ。刀使う人の意見って貴重なんだよね。俺も気になっちゃって色々喋りまくってたら一日じゃ足りなくて。あ、楓ちゃんの刀はもう出来てるから安心してね?」
「…ありがとう。」
指された方向を見ると、確かに見覚えのある刀が二振り並べて置いてある。
一言断って鞘から刀を抜く。
「わぁ…」
あのボロボロだった姿はすっかり見違えており、振りやすくなっているようにも思えた。
「すごい…!」
「ここ、設備が無駄に整ってるからね。」
和磨は自らの腕ではなく、父の鍛冶場を誇った。
和磨と喜助の間には、おそらく和泉の作品であろう刀が置いてある。
「この反りがさぁ、あともう少し無かったらちょうど良いと思うんだよね。」
「でも実用性に全振りしとったらこの出来にはならんやろ。」
和泉の作品をしげしげと眺め、二人でうんうん頷いている。一日かけて一振りの刀を語り尽くす勢いだ。
とてもついて行ける世界ではない。目のやり場に困って辺りを見渡す。楓の刀の調整に加え、連日喜助が来ているからか、片付けらしい片付けはされていない。むしろ生活感が増している。
ふと、水場に視線が止まった。魚籠が置いてあり、中に魚が入っていた。
「忙しいのに魚釣りもしたの?」
「違うよ、知らない内に母屋の入口に置いてあったんだ。多分あの子、藻助くんだっけ?じゃないかなぁ?」
(!)
ドクンと心臓が大きく鳴った。
(接触…してる?)
「会ったの?」
「会ってないよ?会えたらお礼言えるのにさ。まぁ食料としてありがたくいただくよ。山暮らしでは貴重な栄養だしね。」
「山、暮らし…?」
自分の耳を疑うように反芻した。今まで和磨は穂高村に住んでいた。山暮らしではない。
「なんだ、喜助に聞いてない?俺、村を出たんだ。」
「なんで?!」
食い付くように尋ねる楓に目を瞬かせ、和磨は変わらない笑顔で答えた。
「刀作るにはこっちの方が整ってるからね。叔母さんも納得してくれて、餞別に表にいる鶏くれた。そこに良い顧客が二人も出来たしね。」
少し意地の悪い笑みに変え、和磨が二人を見る。
魅染ではない。刀鍛冶の顔だ。
「そ…なんだ。」
訝しむ気持ちと安心を両肩に乗せ、楓はそれ以上深く聞けなかった。




