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「えっと…その、何かスミマセン。」
ようやく解放された阿蘭に声を掛ける和磨。
「あんたが謝ることじゃない。」
縁側に座る阿蘭は無駄に疲れている。
「息子ぉ!もう一回見たいよなァ?ほれ、ズミさんに見せられんのも最後だぞ!」
普段見られない阿蘭の神楽舞に盛り上がった妖達。一度舞ったのを良いことに、和泉や和磨をだしにその後何度も踊らされたのだ。
「それ、父さんの打った刀だよね?」
「…わかるのか。」
「見たらわかるよ。ずっと話してたしさ。美しい舞を踊る妖に最高傑作を貢いだって。」
和泉越しに熱弁されていた阿蘭の舞を見た瞬間、絵空事のような出来事だと思っていた世界が急に現実に降りてきた。
“猛々しくもあり、繊細で、美しく儚い。だが強さもある。あれは良かった!何度でも観たくなる!”
しつこく聞かされたその舞を自分の目で見る日が来るとは思わなかった。
「…これを、返しに来た。」
阿蘭が先程まで舞で使っていた刀を和磨にそっと差し出した。
「え?」
「刀の良し悪しは多少ならわかる。俺の持ってるより、あんたの手元にあった方が刀作りの種にはなるだろ。」
「返しに来たの?舞を見せに来たわけじゃなくて?それでこんなに踊らされて?あはっ、可哀想…!」
吹き出した和磨に阿蘭が不貞腐れる。
「ありがとう。でもいいよ。父さんが君にあげたんだから。俺のトコで教科書になるより、それ使って踊ってくれた方が刀も喜ぶでしょ。刀見れただけで充分だよ。あと、神楽舞も見れたしね。」
和磨に最初にここへ来た時の硬さはもう無い。父の古い友人、遠い親戚と話している。そんな感覚だ。
「だいじぃ!お前も踊るか〜?!」
盛り上がった妖達は中庭で好き勝手踊っている。
「やだよ!…俺、和磨だってのに…何でみんな勘違いしてるんだろ?」
和泉の息子、倅。ここにいる妖達は和磨の存在や顔を認識している。にも関わらず、違う名前で呼ぶ妖が何人も居た。わざと間違えているようにも思えない。その名前で覚えているのだ。
「ここの妖達はあんたの名前を知らない。和泉が教えなかったからな。」
「え?何で?」
お喋りだった和泉のことだ。べらべらと余計な話を吹き込んで、もちろん名前も出していると思っていた。
「妖の口からあんたの名前が出たら、あんたも魅染かと誤解されるかもしれないだろ。」
「……。」
「それでも興味津々なやつらだからな。あんたの名前を尋ねた妖も居るが、名前は教えてない。あんたを指す言葉で代用してる。奴らも、それをあんたの名前として覚えてる。」
“うまいやつ、こっち”
_あいつはうまいんだ。刀の声を聞くのが、うまいやつだ。
“おや、たから。来たんだねェ。”
_私の宝、だよ。
“だいじぃ!お前も踊るか〜?!”
_あいつか?うん、大事だな。すごく、大事だ。
「そんなん…面と向かって言ったことないくせに…」
「肝心な所は言葉が足らんやつだからな。」
笑いながら、ほんの一瞬だけ和磨が顔を歪めた。




