囃
寺の中庭がざわざわしている。
「お…!阿蘭のヤツ、来たな?」
何かに気付いて烏天狗がいそいそと立ち上った。
(あ…。阿蘭。)
中庭に続く障子と雨戸を開け放つと、絡んでくる妖を面倒臭そうにあしらう阿蘭の姿が見えた。
「だから、俺はあいつの跡継ぎに用があるだけだ。」
「またまた〜。神楽舞の剣持って、舞う気満々じゃろ?照れるな。ほれ、和泉にも息子にも見せてやれ。」
「おどれ!おどれ!」
悪いノリの宴会場のように囃し立てられ、阿蘭が眉間に深く皺を刻み込んでいる。
遠巻きに眺めながら、楓は小さく笑みを漏らしてしまった。普段の阿蘭なら怒って帰っているところだが、和泉の葬式であるこの場に合わせてちゃんと耐えているのが少し面白かった。
「お?阿蘭のやつ、腹を括ったぞい。」
「だいじ!来いよ。あれはなかなか見れんぞ!」
烏天狗が和磨に向かって手招きしている。
「…俺?」
「お前しか居ねぇだろ、ほら、ここ。二番目の特等席。ここから右行くとズミさん見れねぇからそこまでな。」
雑に足で座る場所を指定され、言われるがまま腰を下ろす和磨。
和磨は今、どんな顔をしているのだろう。
こんなにも妖に慕われ、死を哀しまれ、死後ですら大切に想われ、
こんなにも妖と深い仲にあった和泉をやはり魅染だ、と嫌ってしまったりしないだろうか。楓の居る場所から和磨の表情はわからない。そっと盗み見た隣の喜助も、何とも言えない複雑な顔だ。
「なに?」
楓の視線に気付いた喜助が、阿蘭の舞から目を離さずに尋ねてきた。
「何考えてるのかなって。」
「わからん。…わからん世界過ぎて、何もわからん。」
「そう、だよね。」
正直、楓もここまで妖に慕われている人間が存在しているとは思ってはいなかった。白鴉や阿蘭達のようにしっかりと知恵の備わった妖達ばかりではない。藻助のようにやっと会話出来る程度の妖も、楠や飛燕のような、動物に近い妖の姿も見える。彼らなりに、友である和泉を人間の作法で和泉を送ろうとするその姿に、穂高村では見られなかった優しさと、誠実さが見えた気がする。
「…自分…、魅染とちゃうんよな?」
一瞬、躊躇をみせてから喜助が尋ねてきた。
「違うよ。」
(私、そう思われてもおかしくないところまで来てる…。)
もし、自分も魅染と思われてしまったら。
もし…、喜助が今日の事を里の大人達に話してしまったら。
腕に僅かに鳥肌が立つのを感じた。




