再訪の味~幡ヶ谷の赤い夜~
「それじゃまた~」
「暫くはこなくてもいいぞ?」
翌日、すっかりラブラブに戻った二人を見送り、俺とレイは屋敷で人心地ついていた。
「それにしても、ドリスコルと俺が親族だったとはなあ」
衝撃の事実である。正直あまり嬉しくない。
「そうですね。私のデザインも亡き妻に似せているというのですから、変態ですね」
レイも容赦がない。
「まあ、あいつもあいつなりに考えることがあるってことかねえ?」
一応はミリアルの嫁取に助力を乞う身である。少しだけ擁護してやることにする。
「単に好色なだけでしょう? 心に決めた人がいるなら一人で十分ですから」
今日のレイはやたらと辛らつである。
「……何か、気に食わないの?」
「え? 普通に気持ち悪いですよね? 私のことそんな目で見られていたとしたら」
「……うん、まあ、そう思うから擁護はこの辺にしとくわ」
すまんドリスコル。擁護ポイントが無かったわ。めんごめんご。
「さて、そんなことより、だ」
俺の嫁取りの準備である。
早急にドリスコルの置き土産の処理をしなければならない。
ミリアルがこちらに来て問題なく暮らしてもらうために必要な物が沢山あるのだ。
「何かお手伝いすることはありますか?」
「ありまくり、助けて」
戸籍、新居、ほかにも諸々の手続き、クリアすることは山ほどある。先に必要な物はそろえてしまったほうが良い。いつ何が起こるか、わからないのだし。
「いざエルフを敵に回したとしたら、どうなりますか?」
「攻め込まれる――かもしれんなあ」
最悪ドリスコルと俺がつるし上げられたうえで、な。
防衛に関してはそれなりに準備されているこの屋敷だが、まさかこういう事態を予期していたとも……いや、なくもないか?
「ともかくだな、まず必要なのは――」
『次来るお客様の協力を取り付けて下さい』
ドリスコルが残していった言葉が思い出される。そう、どうやら次に来るお客は、俺の味方らしいのだが……。
「次のお客はいつ来るんだ?」
「今日の夜です。もうすぐご到着かと」
「早っ!?」
「何でも先方が望まれたことだそうで……」
「まあ、いいけどさ。じゃあ片付けちゃっちゃとしないと」
「屋敷機能が強化されておりますので特に必要なく」
「……便利すぎる」
人を駄目にする屋敷として売り出したらきっと億の値が付く気がする。売れないけど。
「あ、着たっぽい」
裏手の木戸から魔力の光が漏れ始めたのが見える。俺は急いで出迎えに向かう。
「どうも、この度は――」
あ。
見覚えがある、そのシルエット。光から現れ、そして一瞬にし溶けるように消え、今その姿は俺の横にある――。
「――久しいな」
白い髪に白い肌、そして青い瞳の漆黒のゴスロリ娘――。
「エ、エリザーベート、さん?」
吸血姫エリザベートが俺の横に立っている。
民泊始めてすぐの頃に親父さんの後をつけてやってきた、吸血鬼のお嬢さんだ。
「――久々に、吸わせてもらってもよいか?」
彼女の瞳が怪しく赤く染まる。ま、まずい。
「――戯れはお止めいただけますでしょうか?」
エリザベートさんのすぐ隣にいつの間にかレイが陣取っている。
「ふむ、邪魔か」
「邪魔ではありません。ご主人様の安全を確保することこそが――」
「黙ってろ、小娘」
その言葉が終わるや否や、レイがまるで操り人形の糸を切られたかのように崩れ落ちた。
「――ちょ、レイ!? な、なにしたんだあんた!」
「何をしたとは失敬な。先に殺気を放ったのはこいつだ。吸血姫たる私に矛を向け五体満足なだけで喜ぶべきだぞ? そこの九尾の魂と人形の魔力の繋がりを少しの間だけ絶っただけだ。暫くすれば動けるようになる」
レイも相当に強いと思っていたのだが、どうやら格そのものが違うらしい。そういや一万からなる敵をぶっ殺して回れるぐらいには強かったんだっけ?
「さて、では――吸血のお時間だ。元々、それが目的だからな」
「え」
おい、まさか、ドリスコル『お願い聞いて』ってのは――。
「――はぁ、疼くのう」
完全に赤い瞳になった彼女が俺に覆いかぶさる。
「待って! ヘルプ! アウト!」
幡ヶ谷の夜は――まだ始まったばかりであった。
ちょっと短いですけどきりが悪いのでここで。
来週は子供の将棋大会に付き添うので更新は火曜日以降になります。




