澄子の話
澄子はティーカップをソーサーに置いて、正面に座る結を見つめた。
「まずは、今の私について話しましょう」
相変わらず涼やかな声で話し始めた。
「私は現在、子ども占い師として活動しています」
「占い師…ですか」
「ええ。結構当たっていると評判なんですよ」
と言って澄子は笑顔を見せた。そして話を続ける。
「昨日の服は、子どもらしさをアピールした衣裳だったんです。朝一で相談者と面会したものですから、ワンピースを着てそのまま過ごしました。普段はこの格好でいます」
と言いながら両手を広げ、結が着ているのもと似ているが彼女のより手の込んだ作務衣のような服を見せた。
「でも、そろそろ占い師は引退します。私に残された時間をあなたと過ごしたいので」
さらりと話す澄子に結は何も言えず、正面に座る日本人形を思わせる整った幼い顔を見つめるしかなかった。
「私が生きる活動を終えたら、あるものに変化します。それを常に結に携帯して欲しいのです」
あるものに変化ってどういう事なのか結は理解出来ない。
「つまり、私を結に託すというのは、変化した私をあなたに常に携帯していて欲しいという事です」
「澄子さんは一体何に変化するって言うんですか」
「それはその時にならないと、私にもわかりません。ただ、とても小さなものになるのだと思います。その際は羽那に一任しているので彼女を頼ってください」
ここまで話し終えると、澄子は紅茶を一口飲んだ。
結は澄子に担がれているのではないかと思った。
姓は無く名前だけというのはあり得ないと思ったし、瑞々しい柔らかな肌をした少女が自分よりはるかに年上というのはやはり信じがたい。
ただ、不思議なことに澄子と一緒にいると気持ちが落ち着き心が安らいだ。ずっと、このまま澄子と羽那と三人でいられたら良いのにと思う結だった。
それからは、のんびりゆったりとした時間が過ぎていった。
朝、目覚めると作務衣に着替え、澄子とゆっくり朝食を取り、昼食や夕食以外の時間は車椅子の澄子の隣で庭の花々を眺めたり読書をしたり、作り話だとは思うが澄子の今に至るまで経験した様々な話を聞いたりして過ごした。
澄子の話はとても面白く興味深い内容だった。
結は思わず
「書籍にしたらベストセラーになりそうです」
と言ってしまうほどだった。
「そんなに私の話は面白いですか」
澄子が微笑む。
「はい。とっても。それにしても、かなり時代を遡った出来事のような気がしますが、澄子さんは…その…」
「そうですよ。私は本当に長生きしているのです。なので、私の身の回りの世話をしてくれるのは羽那で五人…いや六人目ということになります」
さらりと話す澄子に、結は驚く顔を向けて何も言えなかった。
「澄子さま、買い出しに行ってまいります」
黒マント姿の羽那が声をかけてきた。
「あの、私もお供します」
結が羽那の傍に行くと、彼女は少し困った顔をして澄子を見た。
「せっかく結が手伝いたいと言うのですから、連れて行きなさい」
と澄子が言う。
「ですが……」
羽那はやはり困り顔のままだ。
「結」
澄子が呼びかけ
「羽那は多くの買い物をします。そのために、今目の前にいる彼女の姿でなくなります。どうか驚かないでくださいね」
世間話でもするような声のトーンで言った。
「あの……」
「羽那、外に出たら姿を変えていいですよ」
澄子の言葉に頷き、羽那はフードの付いた黒いマントを結に渡し玄関から外に出た。その後に結も続く。
「結さん、私の姿が変わったら、私の手の傍に来てください。それまで少し離れて」
と言った途端、羽那の姿は一瞬にして人の姿で無くなった。




