朝食
朝、目覚めると結は天蓋の下の高級な電動ベッドで横になっていた。
はっとして、慌てて起き上がる。
横に澄子の姿はなかった。
体の向きを変え、結はゆっくり立ち上がった。
ちょうどその時、部屋のドアが開いて羽那が入って来た。
「おはようございます。結さん、着替えをお持ちしました」
パンツタイプの藍色のセットアップを渡され、結も慌てて挨拶をした。
「おはようございます。すみません。あの…私、澄子さんのベッドで寝てしまいました」
「澄子さまから伺っています。昨日の出来事を思い出されたそうですね」
「それは思い出した事実なのか、それとも夢なのか、はっきりしないのですが、羽那さんに助けていただいたのは確かです。命を救っていただき本当にありがとうございました」
結は深く頭を垂れた。
「頭を上げてください。私は澄子さまの命令に従ったまでです。着替えが終わりましたらダイニングへいらしてください。澄子さまがお待ちですので」
「はい」
結の返事を聞いて、羽那は一礼して部屋を出ていった。
渡された服は藍染めの作務衣のような服だった。動きやすく実用的である。つまり作業着だ。ま、自分は居候なのだから仕方がないか。そう思いながら、結は着替えて急いで寝室を出た。
ダイニングのテーブルには、ピザトーストと半熟玉子のソースがかけられたサラダと新鮮なフルーツと香り高い紅茶が注がれたマグカップが並べられ、席に着いた結の正面には、車椅子に座ってティーカップを持った澄子が微笑んでいた。
あれ、と結が一瞬驚く。昨日のフェミニンなワンピースと違って澄子の着ているのは結とよく似た藍染めの作務衣だった。違うのは襟と袖口に青の濃淡で刺し子のような刺繍が施されていた。日本人形のような髪型と顔立ちは、昨日より今日の服装の方が似合っているなと思ったが、まずは挨拶をしなければ。
「お、おはようございます」
結は慌ててお辞儀をした。
「おはよう。よく眠れましたか?」
カップをソーサーに置いて、澄子が聞く。
「は、はい。あの、自分のベッドがあるのに、澄子さんのベッドで寝てしまいすみませんでした」
「謝ることはありません。早速朝食をいただきましょう」
澄子がフォークを手にして食べやすくカットされたメロンを口に運んだ。
「あの、羽那さんは一緒に食べないのですか」
テーブルに着いているのが澄子と自分の分だけだったので気になった。夕べも、そして今朝の食事の時も、羽那はこのテーブルに着くことはなかった。
「羽那は偏食なのです。私たちとはメニューが違うので一緒に食べません」
偏食って、彼女はいつも何を食べているのだろう。
そんなことを一瞬考えたが、それより一番聞きたかったことを尋ねた。
「あの、昨夜ベッドで澄子さんが話していた『私をあなたに託す』というのは、どういう事なのでしょう」
「どう伝えるのがいいかしら」
澄子はしばらく考えを巡らせて口を開いた。
「食事が終わったら、ゆっくり話すわね。さあ、食べましょう」
結を促して食事をした。
朝食が終わったタイミングで、羽那がワゴンを押してダイニングに入って来た。空いた食器をワゴンに乗せて、紅茶のポットを熱いものと取り替え澄子のカップと結のマグに注いだ。
そして一礼をしてワゴンを押しながら部屋を出ていった。
「それでは、私をあなたに託すことについて話しましょう」
熱々の紅茶を啜ってカップをソーサーに戻すと、澄子は結の顔をまっすぐ見た。




