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澄子の音(すずのね)  作者: モリサキ日トミ


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4/11

羽那の話

澄子が声をかけると、羽那がお茶のセットを乗せたワゴンを押してやって来た。

羽那は、部屋の隅から小振りだが凝った作りのテーブルを澄子の前に運び、透けそうな程薄いボーンチャイナのカップに紅茶を注ぎソーサーに乗せて、そのテーブルに置いた。

それから、マグカップに角砂糖を二つ落としその中に紅茶を注いだ。それを結が座っていたベッドのサイドテーブルに置く。

澄子はティーカップを手にすると紅茶のふくよかな香りを堪能し、静かに味わった。

結もマグカップを持って甘い紅茶をフウフウしながらごくりと飲んだ。糖分を取って少しだが頭の中がクリアになった気がした。


「羽那さん、聞いても良いですか」


結は思い切って尋ねた。


「はい」


羽那が返事をした。


「私が羽那さんに助けてもらった時の事を教えてください」


羽那はすぐには答えず、この家の主に目をやった。

澄子が静かに頷いて


「承知しました」


羽那は話し始めた。




それは五時間程前。

羽那が買い物のため街へ出かけた。

ここから街まで大した距離ではなかったが、途中、デイン地区と呼ばれる治安のよくない所を通らなければならなかった。

そのため、羽那はフードが付いた大きな黒マントを着用している。それを羽織ると乱暴者たちから気づかれる事はなかった。

今日も、その()で立ちで羽那は街の市場で買い物を済ませ、その帰り道での事だった。

デイン地区に通りかかった時、一人の女性が必死な形相でこちらに向かって走って来たのだった。

そして羽那とぶつかり女性は尻もちをついた。彼女からは羽那の姿が見えないのか、尻もちをついた理由がわからず混乱している様子だったが、それどころではないといった勢いで立ち上がり走り出そうとした。

とっさに羽那は女性の腕を掴みマントの中に隠したのだった。

そしてここに連れて来たと、羽那は話した。

マントの中で彼女は自分の生い立ちを羽那に語った。

それは、女性が生まれてすぐに両親が殺され、近所の人々が彼女を大切に育てくれた。しかし、17歳になった途端、今まで育ててくれた面々が急に彼女の命を奪おうとしたので逃げたという主旨の話だった。




「私がマントの中で、そんなことを話したんですか?」


「はい。話が終わった途端、結さんは意識を失って…申し訳なかったのですが、ここまであなたを引きずらせてもらいました」


さらりと羽那は話したが、買った物を持った彼女が、例え引きずったとしても意識のない自分をこの家まで徒歩で運ぶのは考えられない。


「結、羽那はあなたが考えているより、はるかに力持ちなんですよ」


自分の気持ちを読まれたような言葉を澄子に投げかけられ、結は驚いた。


「ここに運ばれてからのあなたは意識朦朧としていましたが、私が何があったのか問うと羽那に伝えたことと同じ話をうわ事のように口にしていました。そしてまた、あなたは意識を失いました」


澄子の話を他人事のように聞いていた結は、思考力が全く働かなかった。

その夜、澄子は羽那の手を借りながら天蓋のついたベッドに横になった。


「結さんも今日はお疲れでしょう。どうぞお休みください」


羽那は一礼して部屋を出ていった。

二人きりになると


「結、こっちに来て」


澄子が呼ぶ。

結がベッドの傍に行くと


「一緒に横になって少し話をしましょう」


澄子は少し横にずれて、隣にスペースを作った。

結が躊躇していると


「さあ、ここへ」


澄子が羽布団をめくり、手で白いシーツをポンポンと叩いた。

こうなると断れない雰囲気になったので


「失礼します」


結はそっとベッドに腰を下ろし、ゆっくり体を動かして澄子の隣に横になった。

澄子がめくっていた羽毛布団を元に戻し、部屋の照明を暗くした。

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