共存
ジュリエンは手の自由が効かないように後ろ手に縛られ、頭から袋を被せられ床に転がされていた。
その前では彼女を捉え、ここに連れて来たガランとヘーリンが椅子に座ってこちらを凝視している。
「袋を被せても、どうせアンタには俺たちが見えてるんだろうけど、その目線が鬱陶しいからな。顔が見えないようにさせてもらった」
と、ガランが言う。
ジュリエンは何も言葉を発しない。
「まさかとは思うが、キャスンがここに来ていたんじゃないだろうな」
ヘーリンがジュリエンの足を軽く蹴飛ばす。
ジュリエンは無言のままだ。
「何か言えよ。最近、行方知れずが多くなってるんだ。それってキャスンが関係あるんじゃないのか?アンタが手引きをしてるんだろう?」
何も答えない彼女の腹の辺りを蹴飛ばした。今度はかなり強かった。ゲホッと声が漏れたが、ジュリエンは返事をしなかった。
「答えろよっ」
ヘーリンは更に勢いをつけて蹴ろうとした。
「やめとけ」
ガランが止める。彼はジュリエンのスキルを知っている。彼女の怒りを買うのは危険だ。
シャリーン
──羽那、結はどうしました?
ダイニングテーブルに置かれた薄青いシルクサテンの座布団に鎮座していた澄子が尋ねた。
「結さまは寝室に行かれました」
シャリーン
──朝食を終えたばかりなのにどうしたのでしょう。羽那、私を寝室に連れて行ってちょうだい。
「承知しました。澄子さま失礼します」
羽那は両手で座布団ごと澄子を持ち上げて、ゆっくりと結の寝室に向かった。
結の寝室はかつて澄子の寝室で、それまでは部屋のほぼ真ん中に大きな天蓋付きのベッドが置かれていた。今はそのベッドが撤去され、隅に結のベッドとサイドテーブルだけが置かれており、磨き抜かれた床が広がる広間のようになっている。
その床の上で結は腕立て伏せをしていた。
かなり回数を重ねたのか、滴った汗が床に落ちている。
シャリーン
──結、筋トレですか。
羽那が窓辺に行き、出窓に座布団を置いて鎮座した澄子が声をかけた。
「……はい。体を鍛えようと思います」
それだけを言うと、結は荒い息を吐きながらしばらく何種類かの筋トレ運動をローテーションした。
澄子は最初に声をかけたきり、何も言わずに結を見守った。
そして結は意識を失うように床に倒れ込んだ。
タイミング良く羽那がよく冷えた電解質ドリンクを持ってやって来た。
「結さま、冷たいうちに飲み物をどうぞ」
「ありがとうございます。いただきます」
結はゆっくり起き上がり羽那から大きなグラスを受け取った。
ゴクゴクと喉を鳴らして、あっという間にドリンクを飲み干すとフウーッと息を吐いた。
「ごちそうさまでした」
空のグラスを羽那に返すと、交換するみたいに冷たい濡れタオルを渡された。それを広げて顔に当てる。
気持ちよくて
「はあーー」
思わず声が出てしまった。
そして息が落ち着いた頃合いを見計らって
シャリーン
──結、何か思うところがあっての運動ですか?
澄子が尋ねた。
「はい。澄子さんがずっと胸元にいてくれるし、パワーのある腕輪で攻撃が出来ますし、羽那さんが渡してくれたマントで存在も隠せます。でもこれから先、魔物を倒すためには私自身が力を身につけなければならないと感じたんです。それに……」
シャリーン
──結の育ての親が心配なのですね。
「はい。ジュリエンは目立たないように何度も私を助けてくれました。でも、もう彼女をあてにする訳にはいかないし、もしかしたら、私を助けた事が発覚して酷い目に遭っているかも知れません」
シャリーン
──結は、そのジュリエンという魔物をどうしたいのですか。
「彼女と共存は出来ないのでしょうか」
シャリーン
──結はそれを望んでいるのですね。
「……はい」
結が返事をした後は長い時間静寂が続いた。




