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澄子の音(すずのね)  作者: モリサキ日トミ


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街中を歩き回る

「澄子さま、結さま、お気をつけて」


羽那に見送られて、結はデインの結界の中に入り込んだ。

結がこの中に入れるのは、かつてここで暮らしていたからと思われる。

まだ人間として生命活動をしていた頃の澄子や、彼女にとって執事のような存在の羽那は、羽那の故郷の宝珠でありながらデインに呪いをかけられて寺の宝物(ほうもつ)として安置されているもののせいで結界を越えて中に入ることは出来ないでいた。

今も相変わらず羽那はデイン地区の中に足を踏み入れることが出来ないが、生命活動を終えて小さな玉になった澄子は結の胸元に提げた巾着袋の中に収まり、結と一緒にいることで結界を越えることが出来た。

いつものように黒マントとフードで存在を隠し、結はデインの街中へと入って行った。

住民とすれ違う。

行き交う姿は昔の童話に出てきそうな格好の面々で、男女問わず頭にスカーフを被り麻のブラウスに厚手の木綿のロングスカートかロングキュロットを履いている。

大通りに面しているのは商店らしき建物だが、ショーウインドウなどは無く店内の様子は窺えず、何を扱っているのか結にはわからなかった。

元々彼女は、ここで生活をしていた時も自分の部屋から出ることがなく、そこの小さな窓から街並みを眺めるだけで外での様子や出来事を知ることがなかったのだ。

そんな籠の鳥のような生活ではあったが、物心ついた頃からそうやって過ごしていたので、当時の結にとってはそれが普通のことだと思っていた。


シャリーン

──結、今日は街での魔物たちの行動を観察するだけにしましょう。そのかわり、出来るだけ広範囲を歩き回ってどこに何があるのか確認してください。


「わかりました。実は私、ジュリエンと暮らしていた家からほとんど外に出たことがなかったのです。なので、しっかり街並みを確認して把握したいです」


結はフードの隙間から周りの景色を窺った。

そこそこ幅員の広い道が東西南北と碁盤の目のように伸びているが、車や自転車などは走っていなかった。そこを歩く面々は両肩に軽々と荷物を担ぎ、すたすたと道を行き交っていた。

それにしても……

なぜ、デインの魔物は人間の姿で生活をしているのだろうか。結は疑問に思った。自分がここで暮らしていた時は、生贄として育てられた自分がなんの疑問も持たないようにするために魔物も人間の姿になっていたのだろう。しかし自分が逃げていなくなった今は、本当の姿で活動すれば身軽なのではないかと結は思った。


シャリーン

──結、デイン地区は一般の人々の生活圏と隣接しています。周りと関わり合いが無くても、目立たず干渉されないためには人の姿という隠れ蓑が必要なのです。それに、おそらくスキルの無い魔物はデイン地区の外に出没して人をさらっては食している可能性があります。


「確かに、結界の近くに暮らす魔物はどうやって手に入れたのかわかりませんが人の体の部位を食べていました。私はそれを目撃して気分が悪くなりました」


シャリーン

──結、魔物が大勢こちらに向かって来ます。気をつけて。


「はい」


結は素早く建物の陰に隠れた。

マントとフードでしっかりと存在を隠してはいるが、この辺りを歩いている者の中には高いスキルを持つ魔物も紛れている可能性があったのだ。

そして、その中に


「あっ、ジュリエン……」


結は、ここでの育ての親とも言えるジュリエンの姿を見つけてしまった。


シャリーン

──結、帰りましょう。あなたを育てた魔物は、あなたがここにいることに気づいています。


澄子の言葉は心なしか早口だった。結に会わせたくない相手が傍にいることに焦りを感じたのだ。

結は魔物の姿が見えない道を選んで結界の場所まで走った。

そして結界の外に出ようとした時


「キャスン」


背後から声をかけられ結の動きが止まった。

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