澄子が安らぐ空間
澄子の家に戻った結は、ダイニングテーブルに置かれた淡い青の小さな座布団に生成り色の胡桃大の玉──澄子を鎮座させた。
シャリーン
──結、今日もよく頑張りましたね。
「ありがとうございます。アリスンは、澄子さんが言ったように今までの魔物とは比べものにならないくらい恐ろしかったです。今回は身の危険を感じました」
シャリーン
──これから対峙する魔物は、更に危険な輩になると思います。私は感覚をより研ぎ澄まします。結も今まで以上に用心しながら行動してくださいね。
「はい。それと、体を鍛えないと……。久しぶりに走って足がガクガクしてしまいました」
結は太股とふくらはぎを擦った。
「結さま、お風呂の用意が出来ました。ゆっくりお湯に浸かってください」
羽那がバスタオルを結に手渡す。
「羽那さんも、ずっと外で待っていてくれて疲れているんじゃないですか」
「私はこんな弱々しい見かけですが、実はとてもタフなのですよ。結さまが入浴している間に夕食の準備をいたしましょう。今夜は結さまの好きなオムライスです」
「わあ、うれしいです。お風呂に入ってきます」
結は羽那に笑顔を見せて浴室へ向かった。
シャリーン
──羽那、大丈夫ですか。サンクの…今はまだデインの宝珠に近づくことで、あなたの生気が吸い取られているんじゃないのですか。純粋なサンクの宝珠なら羽那に力を与えてくれるでしょうけど、周りをデインの呪詛でガチガチに覆われてしまった宝珠は、それに近づいたあなたに悪い作用を引き起こすと思います。結界が小さくなって、羽那が日に日に宝珠の傍に近づくことで、あなたのパワーが吸い取られてしまうのではないですか。私はそう考えています。
「澄子さま、私は大丈夫です。少しでも結さまの傍で役に立てればと思います」
シャリーン
──羽那、私はあなたに幸せになって欲しいのです。そのためにも宝珠を奪還しなければならないのです。その上で、宝珠を厚く覆っているデインの呪いを取り払い、あなたの手に戻します。すでに亡くなってしまったあなたの家族やサンクの住民は、もう救うことが出来ません。しかし、羽那は本来の姿に戻します。約束します。
「澄子さま、私のことを思っていただき感謝します。私も全力で澄子さまと結さまのサポートをいたします」
羽那は生成り色の小さな玉に向かって深くお辞儀をするとキッチンへ消えた。
ダイニングのテーブルにポツンと残った澄子は、淡い青の小さな座布団の上で考え込んだ。
「澄子さん、お風呂いただきました」
シャンプーのいい香りを漂わせて結が席に着いた。
ん?
この部屋の空気がさっきと違う。
ピリピリと皮膚に感じる緊張感とでも言うべき張り詰めた空気だ。
この雰囲気はテーブルの澄子から発っせられている。
「澄子さん」
返事がない。
「澄子さん。どうしたのですか?」
シャリーン
──ごめんなさい。ちょっと考え事をしていました。
「私が、その考えていた話を聞くことは出来ますか?」
シャリーン
──大したことではありません。気にしないで。そろそろ羽那が夕食を運んで来るでしょう。私に、あなたが美味しさに満足する顔を感じさせてちょうだい。
その時、羽那がとろとろの玉子が乗ったオムライスと温野菜サラダをワゴンに乗せてやって来た。
「結さま、お待たせしました」
テーブルに料理が置かれると
「いただきます」
結は、二人前ほどの量のオムライスをパクパクと口に運ぶと、あっという間に皿が空になった。枝豆とブロッコリーのサラダもペロリと平らげ、羽那が淹れてくれた甘い紅茶をフウフウしながら飲んでひと息ついた。
チラリと澄子を見る。その周りの空気が先程と比べると柔らかくなっている。澄子は結が満腹になって満足する様子を感じるのが本当に好きなのだなと、結は思った。
今、この空間は澄子の安らぎの場所になっているのだと、結はチラッと生成り色の玉を見た。
結は何も言わないが、そのつるりとした玉を微かに輝かせた。




