羽那の思い
自宅に戻った結たちは、各々自分の場所でくつろいだ。
結は、ダイニングのテーブルに着いて羽那が淹れてくれた甘い紅茶をゆっくりと味わった。
羽那は紅茶を結の前に置くと、自分の城であるキッチンへ戻った。
そして澄子は、結と同じテーブルに置かれた淡い青色をしたシルクサテンの小さな座布団に鎮座した。
シャリーン
──結、今日もよく頑張りましたね。
「ありがとうございます」
シャリーン
──けれど、最後に退治した方法には肝を冷やしました。まあ、私に肝はありませんけど。あまり無茶をしないでください。
「心配をかけてすみません。ですが、これからも私は出来るだけ澄子さんの手足となって戦いたいんです。ところで、デイン地区の敷地を今日のように狭くすることが出来るのですね」
結は粗塩を使うことで魔物の家が消滅したことに驚きを感じたのだった。
シャリーン
──外に近いところは魔物のスキルも低いのです。なので倒すのも比較的たやすい。そして、主を失った家は簡単に消すことが出来ます。ただ、中心に近づくにつれ油断は出来ないことになります。今は出来るだけ中心部にいる魔物に気づかれないように、外堀の結界を無くして羽那が入れる範囲を広げます。
「わかりました。ところで、私は羽那さんが作る美味しい料理を食べて、この家に守られながらぐっすり眠って体力と気力をチャージさせてもらってますが、澄子さんは何も栄養を摂らなくて大丈夫なのですか」
シャリーン
──今の私には、食べ物も飲み物も必要ありません。こうして結が美味しそうに食事をしているのを感じたり、今朝のように朝日を浴びることで私は満たされるのです。そして結、あなたの元気が私の元気、あなたの笑顔が私の幸せなのです。ですから、覚えておいてください。私が悲しむ事だけはしないでください。
「はい」
シャリーン
──結、あなたは、私の友人であり、子どもであり、孫であり、子孫なのです。
「はい」
そこへ
「結さま」
羽那がやって来た。
「お風呂の準備が出来ましたので、どうぞ疲れを取ってください」
「ありがとう、羽那さん。早速入らせてもらいます」
結は椅子から立ち上がるとダイニングを出ていった。
結の姿が見えなくなると、羽那が生成り色の小さな玉に話しかけた。
「澄子さま、私の故郷の宝珠を奪還するために危険を冒すことは私の本意ではありません」
シャリーン
──羽那、私と結を案じてくれてありがとう。でも羽那、あなたはサンクの宝珠を手にするべきです。あなたはサンク地区の姫なのですよ。
「澄子さま、本当にありがとう存じます。ですが私は、今のこの生活がとても充実していると感じております。ここに澄子さまがいらっしゃって、結さまが澄子さまと会話をされて、私は結さまのお世話をさせていただき、時々結さまと買い物に出かけたり庭の土いじりをしたり、私は、とても幸せに過ごしています。それに、この家はしっかり結界が張られています。デインの魔物は、ここに入り込むことは出来ません。どうか、この安寧な生活を、澄子さまと結さまと私の穏やかな暮らしを続けたいと思う気持ちを、どうかお察しください」
羽那はテーブルの上に鎮座している澄子に深く頭を下げた。




