バスルームと寝室
そこは、浴室というより六畳程の部屋で床の半分はタイル敷き、もう半分は板張りの居室のようだった。
タイルの上に海外のホテルにあるようなバスタブが設置され、その中はいい香りのきめ細かな泡で満たされていた。
「結さん、この中で体の汚れを落としてください。背中は私が擦らせていただきます」
羽那が言った。
「あの、一人で出来ます」
「……そうですか。承知しました。壁のハンドルを回すとシャワーが出ます。温度は40℃に設定されています。棚のシャンプーとボディーブラシは自由にお使いください。こちらにタオルとお着替えがございますので。それでは」
羽那はお辞儀をして部屋を出ていこうとした。
結が慌てて声をかける。
「あの、やっぱり手を貸してください。私、こういうお風呂が初めてなので」
「承知しました」
羽那はそこに留まり、結は着ていたもの──ボロボロの布を脱いだ。
「澄子さま、結さんをお連れしました」
入浴を終えた結は羽那に連れられ、先ほどとは違う部屋に案内された。
澄子は窓の外を見ていたが、かけられた声に車椅子ごとくるりとこちらを向いた。
「結、さっぱりしましたね。今夜から、こちらにあるベッドを使ってください」
澄子が部屋の角に置かれたベッドを指さした。
この部屋は二十畳程の洋間で、真ん中に近い場所に天蓋付きの電動ベッドが置かれていた。澄子のプライベートな空間なのだろう。
「ここは澄子さんの部屋のように思うのですが。私が一緒でいいんですか」
あまり気を遣う性格ではないが、何となく気が引ける結だった。
「構いませんよ。私に気遣いなく、眠くなったり疲れたりしたら、ここで休んでください」
と澄子は言うが、結は恐縮な気持ちと多くの疑問が頭の中でぐるぐると回っていた。
「お茶を持って参りましょう」
羽那は気を利かせてか、部屋を出ていった。
部屋の中で二人きりになると、澄子が結に近づいて来た。
「結、あなたのベッドに腰掛けて。少し話をしましょう」
そう言われたので結はベッドに座り、向かい合う形に澄子は車椅子を動かした。どうやら電動で動かせるようだ。
「結、聞きたいことが多すぎて何から聞いていいか悩んでいるみたいですね」
澄子の声は相変わらず涼やかだ。
結が頷く。
「それでは、私のことを話しましょう。私はこの家の主、澄子です。姓はありません。年齢は正直覚えていません。見た目は子どもですけど相当長いこと生きているのは確かです。もちろん、あなたよりずっと年上です。ふふ、大丈夫ですよ。若い女性を食べて不老不死を保っているわけではありません。でもね、私とて、不死ではありません。もう間もなく生命活動を終えることになると思います」
すらすらと話す澄子に、結は驚きを隠せない。
更に疑問がたくさん浮かんだが、それらを納得するためには重ねて疑問を投げかけることになりそうなので、取りあえず澄子の話を全て受け入れることにした。
澄子は話を続けた。
「そして結、あなたのことを話しましょう。私があなたについて話すのはおかしなことですが、おそらく今、あなたは自分のことを理解出来ていないでしょう」
「……そうですね」
結は他に返事のしようがなかった。
涼やかな声で澄子が話し始めた。




