朝の陽の中、発つ
澄子の家の屋根にへばり付き這いつくばって屋内に侵入しようとしていたものを、澄子と羽那と取りあえず結も一緒に退治し、住まいの敷地に結界を張り巡らせた、翌朝。
結は藍色の作務衣を身に纏いダイニングのテーブルに着くと、窓辺から射し込む陽射しを見上げた。
「澄子さん、いい天気ですよ。日光浴されますか」
結が胸元の巾着袋を両手でそっと握った。
シャリーン
涼やかな音が室内に響き渡る。
「結さま、おはようございます」
羽那が朝食を乗せたワゴンを押してやって来た。
「おはようございます。羽那さん、澄子さんに朝日を浴びてもらおうと思うのですが、台座のような収まりのいいものはありませんか」
結が聞くと
「少々お待ちください」
奥に引っ込みすぐに戻ってきた羽那の手には、縫い針やマチ針を刺すピンクッションのような物があった。
表面を水色のシルクサテンで包んだ十センチ角の厚みのある座布団に見えた。中心が少しへこんでいて胡桃大の玉を置くと座り良く収まりそうだ。
結が巾着袋から澄子を出してそこに置いた。
淡い青の小さな座布団の上で、象牙のようなつるりとした玉が朝日を浴びてほんのりと輝いた。
シャリーン
清々しい音が響き渡った。
「澄子さまは満足なさっているようですね」
朝食の料理が盛られた皿を結の前に置きながら、羽那が明るく言った。
「陽の光に輝いて、澄子さん綺麗ですね」
発光しているような生成り色の玉に、結はうっとりとした。
しかし、
「結さま、食事を召し上がってください。今日からいよいよデイン地区を壊滅させる第一歩が始まります。しっかり栄養を取って頑張ってください」
羽那の言葉に、急に暗い気持ちになった。
シャリーン
澄んだ音にはっとなった結は
「いただきます」
羽那が用意してくれた美味しい朝食をしっかりと食べた。
食後の甘い紅茶を飲み干すと
シャリーン
──結、私を握りしめて。
澄子の指示に従い、結は象牙のような玉を右手でしっかりと握りしめた。
あれ?
結は不思議な感覚に包まれた。右手の玉からエネルギーが注入されたような感じがしたのだ。
シャリーン
──結、私を袋に戻してちょうだい。そろそろ出かけましょう。
結は生成り色をした玉を、生命活動中だった頃の澄子が革紐で編んで作った巾着袋にしまった。
そして椅子から立ち上がると、羽那が黒いマントを差し出した。
「こちらをしっかり身に纏ってください」
結はフード付きの黒いマントを身に着けて玄関に向かった。
外に出ようとした時、
「結さま、これを澄子さまから預かっております。どうぞお持ちください」
羽那が革紐で編まれた腕輪を結の左右の手首にそれぞれ結んだ。
「これは……澄子さんが編んだこの巾着袋と同じ革の腕輪ですね。何か意味のあるものなのですか」
両手首の革紐を交互に見ながら結が尋ねた。
「はい。この腕輪には澄子さまの念と力が込められています。澄子さまの指示によって、とても役に立ちます」
「澄子さんがこの腕輪に命令するんですか」
「はい、そうなるのではないでしょうか。使い方は追々おわかりになると思います」
羽那も黒いマントを羽織り
「結さま、そろそろ出発いたしましょう」
二人は外に出た。
「デイン地区の入り口の前までお供します」
と言って、羽那は妖獣に姿を変えた。
シャリーン
──結、行きますよ
澄子の声に促されて、結は羽那の足の上に乗った。
ガアアアーー
羽那が雄叫びを上げ、朝の陽に照らされて空へ飛び立った。




