涼やかな音が放つ話
私は無力だ…。
この家の屋根に這いつくばり屋内へ侵入しようとしていた悪しきものたちを退治したのは、妖獣に姿を変えた羽那の活躍であったし、新たに敷地に結界を張ったのは澄子が涼やかで清らかな音を響かせたからだ。
自分は、ただ言葉を叫んだだけ、ただ粗塩を撒いただけなのだ。澄子や羽那のような実のある行動をとることなど1ミリも出来ず、流れに身を任せたに過ぎなかった。
私は本当に無力だ…。
結は落ち込んだ。
その時
シャリーン
涼やかな音が鳴った。
「澄子さん…」
結が声に出して呼んだ。
シャリーン
──結、私たちはみんな揃うことで初めて有意義な行動をとることが出来るのです。当然、あなたがいなければあの屋根にへばり付いていたものたちを退治出来なかったし、結界も張れなかったのですよ。
「いえ、私は何もしていません。返って澄子さんと羽那さんの足手まといなのではないですか」
結が問う。
シャリーン
──いいえ。様々なことに手も足も出せない私に代わって、結は私の意思を実行してくれたのです。そしてそれは結、あなたにしか出来ないことなのです。
「私が澄子さんの代わり……ですか?」
シャリーン
──そうです。これからは結が私の意思を受け取って行動するのです。まずやらなければならないのは、デイン地区の壊滅です。そのためには、そこの全員を倒さなければなりません。
「ちょっと待ってください。あそこには大勢の人がいます。ざっと数えても千人以上の人が生活しています。一度に襲われたら、私たちはひとたまりもないと思います。それに私は、例え悪人でも殺すことなど出来ません」
シャリーン
──結、前にもいいましたがデイン地区に棲んでいるのは人間ではありません。あれは魔物です。そしてあの地区は日に日に拡大しています。今までは私と結が一緒に行動することが出来ませんでした。しかし、今は共に動くことが出来るのです。私たちで、あの魔物たちを倒します。
「あの……羽那さんは」
シャリーン
──羽那は、デイン地区の中も上空も踏み入れることが出来ません。あの地区の外で待機してもらいます。なぜなら、遠い昔、彼女の祖先が暮らしていたサンク地区はデイン地区の魔物たちに襲撃され壊滅的な被害を受けました。その時にサンク地区の宝珠が奪われ、デインの魔力で包み覆われてしまいました。今ではその宝珠がデイン地区にある唯一の寺の祭壇に本尊として祀られているのです。そして、その宝珠が羽那の侵入をブロックしています。
「それでは、澄子さんと私だけでデイン地区を壊滅させるということですか。それは無理です。私には出来ません」
シャリーン
──いいえ、結。そんなことはありませんよ。もちろん一度にあそこの全てを破壊することは出来ません。ですが、地道に少しずつ攻撃します。時間はかかりますが、一つ一つ確実に倒していくのです。一日一体ずつ倒します。
「ちょっと待ってください。一体ずついなくなったら、あれ?変だぞって警戒するのではないですか」
シャリーン
──魔物は周りの数が減ってもあまり気にしません。極端に減ったところで、さすがに変だなと感じるでしょうけどね。結、明日から退治を始めます。今日はゆっくり体を休めなさい。私も休みます。
その後は、結がいくら話しかけても涼やかな音と声はしなくなった。




