翔び発つ
「結さま、お召し物をこちらに着替えてください」
羽那が藍色の服をもってやって来た。
ぱっと見、結が着ている作務衣と同じものなのではないかと思った。
しかし広げて見ると
「これは……」
澄子が着ていたのと同じ仕立ての作務衣だった。
生地は結が今着ているものと同じだったが、違うのは襟と袖口に青い糸の濃淡で刺し子のような細かい刺繍が施されていたのだ。
「これは澄子さんと同じ……」
「はい。澄子さまからこの着物を結さまにと、預かっておりました」
「私、澄子さんと同じデザインのなんて恐れ多くて着られません。今着ているこの作務衣で充分です」
結は恐縮して手を出せなかった。
「いいえ、これからはこちらをお召しになっていただきます」
と言うと、羽那は素早く結の着ているのを脱がせ新しいものを羽織らせた。そしてきちんと着付けると
「よくお似合いです」
万感の思いで結を見つめた。
「それから、私たちの身を守るために買い物に出掛ける際に身につけたフード付きの黒いマントを、家の中でも羽織ってください」
羽那の言葉に結は聞き返した。
「家の中でも…ですか」
「はい。澄子さまの姿が小さくなり、この家は今までのように結界が結べなくなりました。外から悪しきものが侵入する可能性があります。ですので身の危険を感じた時にマントとフードですぐに存在を隠せるようにしておいていただきたいのです。鬱陶しいでしょうが、お願いいたします」
「わかりました。澄子さんの手紙にもデイン地区の者がここを襲うかも知れないと書いてありました」
「はい。ですので危険が迫った時は、マントでここと少し違う次元に身を隠すのです」
結と羽那は黒いフード付きマントを常に羽織って過ごした。
しばらくは何事もなく、いつもと変わらぬ平穏な日々が続いた。唯一違うのは、日本人形のような可愛らしい見た目の澄子の姿がないということだった。
結は寂しく感じると、胸元にある革紐を編んで作られた巾着袋をそっと握った。
なぜなら、その中に澄子がいるからだ。
「澄子さん、今日も平和です」
結は小さく独り言ちた
だがある日、羽那が結に向かって声を潜めながら言った。
「結さま、今すぐフードとマントでお姿を隠してください。そして急いで庭に行きましょう」
結は羽那に言われた通りにした。
そして庭から家屋を見ると、何かが屋根の上を這いつくばっていた。
「結さま」
囁くような羽那の声がした。そちらを向くと妖獣の姿になった羽那がいた。
「乗ってください」
結は言われた通り素早く羽那の前足に乗った。
「発ちます」
大きな羽を羽ばたかせ羽那は飛び立った。
空から、今までくつろいでいた澄子の家には、形容し難い不気味なものがいくつもへばりついていた。
「あれは、何ですか」
思わず疑問が結の口をついて出た。
すると
シャリーン
涼やかな音が鳴った。




