手紙
シャリーン
──結、もう泣かないで。
涼やかな響きの後に、あの清らかで優しい声が結の耳に聞こえた。
えっ。
「澄子さん!澄子さんの声がする!」
結は周りを見回した。
「結さま、澄子さまはあなたの手のひらにいらっしゃいます」
羽那が諭すように静かな落ち着いた声で言った。
結は手のひらにある生成り色の玉を見つめた。
シャリーン
──結、私はあなたと一緒にいます。
「結さま、澄子さまから手紙を預かっています。手のひらの澄子さまを袋に収めていただけますか」
結が澄子を巾着袋にしまったところで、羽那はエプロンのポケットから白い洋封筒を取り出し彼女に手渡した。
結は便箋を開くと大きく深呼吸をした後、澄子がしたためた手紙を読んだ。
確かに結の知っている澄子の字だ。
達筆で、とても読みやすい文字なのだ。
愛しい 結
この手紙をあなたが手にしているということは、私はここでの生命活動が終わりを迎えたのですね。
つまり私は、新たなフェーズに移ったということです。
ですから悲しまないでください。
おそらく、今の私は小さな塊……玉になっているのでしょう。
そして、結の胸元に下げた袋の中で、あなたの鼓動や体温を感じていると思います。
結が羽那と協力をしてこれから生活を送るために、まずは、私とあなたの関係について伝えましょう。
結、あなたの家系をずっと遡ると私の双子の妹の凜に繋がるのです。
私の妹はとても賢く、とても心根の優しい人でした。
そして早くに結婚をして家庭を持ちました。
子どもを授かり、妹の遺伝子は代々受け継がれ、そしてそれは結、あなたも継いでいます。
しかし悲しいことに、妹をはじめ皆は第一子が生まれるとすぐに何者かに殺されたのです。
皆その運命を感じていたからか生まれた子どもを生かすために、彼ら彼女らは愛しい我が子を里親に預けました。預けられた子どもは里親の元で大切に育てられました。しかし、その子も結婚をして初めての子どもが生まれると里親に託し、自分は身を隠すのですがやはり命を奪われてしまいました。
それでも私の妹の遺伝子は受け継がれ、結が存在しています。
結の両親は里親にあなたを託す前に殺され、その殺人者に奪われたあなたはデイン地区で育てられたのです。
そう、デイン地区の者が代々、私の大切な家族を奪ったのだということが結と殺された両親のおかげでわかりました。
あの場所で暮らす者たちは人ではありません。人の形をしていますが獣です。
そして、ここからはとても大事な話をします。
私の状態が変わったことで、この家の結界が消滅してしまいました。
おそらく、デイン地区の者たちがここを襲いに来るでしょう。
私は、あの者たちを倒そうと思います。
結、私と共に羽那の力を借りて戦ってちょうだい。
デイン地区が壊滅したら、私たちは今までのようにここで平和に過ご過ごすことが出来るのです。
最後に、私には双子の妹がいたと最初に書きましたが、実は私たちは双子ではありません。
私の母の子宮の中で、更に私の子宮の中から彼女は生まれたのです。ある意味処女懐胎ということです。
胎児が子どもを生むなんてあり得ないと思うでしょうが、私の双子の妹として生まれた彼女は私の実の娘なのです。
なので結の先祖を辿ると凜に行き着き、更に遡るとそこには私がいるのです。
私の可愛い子、結。
あなたに会えて良かった。
私があなたを守ります。
結に愛を込めて
澄子
手紙を持つ結の手が震えた。
頭の中は混乱したまま、それでも澄子と自分は血が繋がっているらしいことは理解出来た。それが事実なのかは俄には信じられないが、澄子が自分の家族なのだと思うと孤独感が払拭された。
だから結は、澄子が記したこの手紙の内容を受け止めようと思った。
しかし、それは、これからデイン地区のあの野蛮な面々が、ここをこの家を襲撃するということだ。
そんなことをさせない!
結は心に誓った。
自分の両親を殺したデイン地区を潰す。
結は胸元の巾着袋を握りしめソファーから立ち上がった。




