閑話 白虎の街 その3
第三章
閑話 白虎の街 その3
「でーとだー!」
「違う」
白虎の街。
大通り。
朝から元気なお豆ちゃん。
朝から疲れてるたにし。
いつものだった。
「でーとだぞ!」
「違う」
「でーと!」
「違う」
何百回繰り返すんだよ。
通行人がちらちら見る。
中には、今の領主様と昔の領主様?という声も聞こえてくる。
なんにしても領主が楽しそうだった。
それだけで十分目立つ。
「なんで嫌がるのさ」
お豆ちゃんが頬を膨らませる。
「嫌がってはない」
「嫌がってるじゃん」
「暑苦しいだけ」
「ひどい!」
ひどくなかった。
たぶん。
二人は街を歩く。
市場。
広場。
噴水。
白虎の街は今日も賑やかだった。
「懐かしいな」
たにしが呟く。
「でしょ!」
なぜかお豆ちゃんが胸を張る。
「いい街だな」
「うん!」
偉そうに胸を張る。
実際偉いけどね。
領主だし。
そのまま歩いていると。
通りの向こうから。
「領主様!」
商人が声を掛けてくる。
「おー!」
お豆ちゃんが手を振る。
「腰痛いの治ったかー!」
「おかげさまで!」
また少し歩く。
今度は果物屋。
「領主様!」
「おー!あれちょっと酸っぱかったぞ!」
「あ!じゃぁまた熟れたのもっていきますね!」
手を振る。
また歩く。
「領主様!」
「おー!」
手を振る。
また。
「領主様!」
「おー!」
手を振る。
「人気者だな」
たにしが言う。
「へへー」
少し嬉しそうだった。
「まぁ頑張ってるし!」
「そうだな」
それは否定しなかった。
カエデ達の努力も苦労も大きいだろうが、お豆ちゃんの人柄も大きいのも確かなのだろう。
街は豊かだ。
人も多い。
治安も良い。
領主としては十分優秀だった。
これは、その証拠だった。
しばらく歩き。
途中で、のんちゃん達と会い、またしばらく歩く。
少し静かな場所へ出る。
古い石畳。
昔ながらの酒場。
見覚えがあった。
「あー」
たにしが立ち止まる。
「覚えてる?」
お豆ちゃんが聞く。
「懐かしいな」
昔。
何度も来た。
白虎時代。
会議と称して飲んだ。
飲んで騒いだ。
何も変わっていない。
「懐かしいねぇ」
珍しく。
お豆ちゃんも静かだった。
二人で少し歩く。
昔の訓練場。
昔の市場。
昔の広場。
見覚えのある景色ばかりだった。
「変わったなぁ」
お豆ちゃんが言う。
「街?昔のまんまだろ」
「じゃなくて、たにしちゃん」
たにしは少し考える。
「そうか?」
「そうだよ」
即答だった。
「昔はもっと怖かった」
「誰が」
「たにしちゃん」
「そうか?」
少なくとも。
今よりは尖っていた。
それは本人も認める。
「今はなんか」
お豆ちゃんが笑う。
「村長だし」
「まぁなぁ」
ルノア村。
温泉。
市場。
ルノア組。
あいり。
こはる。
ひーちゃ。
れんか。
のんちゃん。
たくろー。
あっくん。
思い浮かぶ。
気付けば。
あれが当たり前になっていた。
「良い顔するようになったよね」
お豆ちゃんが言う。
「そうか?」
「うん」
お豆ちゃんは笑う。
少しだけ。
たにしは照れ臭くなる。
だから。
話題を変えた。
「お前は変わらんな」
「一途!かわいい!?」
褒められたと思ったらしい。
「暑苦しい」
「やっぱりひどい!」
認めた。
その時だった。
ぐぅぅぅ。
静かな音。
二人止まる。
「……」
「……」
お豆ちゃんだった。
「腹減った」
「知ってる」
「お昼だぞ!」
「知ってる」
「食べよう!」
「そうだな」
たにしも同意する。
「そいや、あの店まだあるの?安くて空いてる…」
「ああ!あるよ!いこういこう!」
お豆ちゃんは満面の笑みを浮かべる。
「たにしちゃん!」
「なんだ」
「でーとの続きだぞ!」
「違う」
「でーと!」
「違う」
結局。
最後まで平行線だった。
そんな領主を見て、街の人々は、今日の領主様なんかかわいいな。
と微笑むのだった。




