第79話 白虎城へ
第四章
第79話 白虎城へ
「ぐるる」
ヒトデが小さく鳴いた。
役目は終わった。
そう言いたげに翼を広げる。
「あ、帰るのか」
たにしが見上げた。
卵もある。
ずっと留守にする訳にもいかない。
「ありがとねー!」
のんちゃんが手を振る。
「またねー!」
あいりも元気よく手を振る。
「ばいばーい!」
こはるも続く。
「ぐるる」
ヒトデが一度鳴く。
そして。
ゴォォォォッ!!
巨大な翼が風を巻き起こした。
白虎の市民達が再びざわつく。
「飛ぶぞ!」
「近い近い近い!」
「うわぁぁぁ!」
ヒトデはゆっくりと空へ舞い上がる。
広場を覆っていた巨大な影が離れていく。
「すげぇ……」
「本当に飛ぶんだな……」
「ドラゴンだからな?」
誰かが冷静に突っ込んだ。
ヒトデは高度を上げ。
やがて空の向こうへ小さくなっていく。
「さて」
お豆ちゃんが手を叩いた。
「城行くぞ城!」
その時だった。
「そういえば」
れんかがぽつりと言った。
「帰りどうするの?」
全員止まる。
「あ」
たにし。
「あー」
たくろー。
「確かに」
のんちゃん。
静寂。
「ここに永住で!」
お豆ちゃんがサラっと言う。
「そういえばぁ」
ひーちゃが採集バッグをごそごそ漁った。
「スズちゃんから渡されてたぁ」
取り出したのは。
龍鱗で作られた小さなカスタネットだった。
カチン。
綺麗な音が鳴る。
「なにそれ」
たにしが聞く。
「ヒトデちゃん呼ぶやつらしいですぅ」
「呼ぶ?」
「こはるが叩けば来るんだってぇ」
全員。
スズの顔を思い浮かべた。
「あいつ意外とちゃんとしてるよな」
「確かに」
たくろーが即答する。
すると。
「やるー!」
こはるがカスタネットを奪った。
「あ」
ひーちゃが手を伸ばす。
遅い。
カチン。
カチカチン。
軽い音が広場へ響く。
数秒。
何も起きない。
「まぁ流石に――」
たにしが言いかけた。
その時だった。
遥か彼方。
空の向こうから。
「ぐるるるるるるるるる!!!!」
聞こえた。
全員。
空を見上げる。
遠く。
小さな点。
その点が。
どんどん大きくなる。
「早くない?」
たにしが言う。
「早いねぇ」
のんちゃんが言う。
「早いねぇ」
ひーちゃが言う。
「早いな」
たくろーも認めた。
そして。
ゴォォォォォッ!!
ヒトデ帰還。
広場が再びパニックになる。
「また来たぁぁぁ!!」
「なんなんだあいつ!?」
「帰ったんじゃないのか!?」
兵士達も混乱していた。
ヒトデは広場へ降り立つと。
「ぐるる?」
首を傾げた。
どうした?
みたいな顔だった。
こはるが嬉しそうに駆け寄る。
「きたー!」
「ぐるる」
「またねー!」
「ぐるる」
「ばいばーい!」
「ぐるる」
ヒトデ。
沈黙。
たぶん理解した。
たぶん。
「……ごめんな」
たにしが謝る。
「ぐるる」
なんとも言えない鳴き声だった。
少しだけ。
本当に少しだけ。
呆れているように見えた。
その後。
ヒトデはもう一度翼を広げる。
ゴォォォォッ!!
強い風が吹き抜ける。
今度こそ。
本当に帰るらしい。
「ばいばーい!」
「ばいばーい!」
あいりとこはるが手を振る。
「ぐるる」
ヒトデも短く鳴いた。
やがて。
その姿は空の彼方へ消えていった。
「よし」
たにしが頷く。
「今度こそ帰ったな」
カチン。
全員止まる。
「ん?」
こはるだった。
小さな手には。
まだカスタネット。
「もういっかい」
叩こうとしていた。
「あっ」
ひーちゃ。
「こら」
たくろー。
「やめろ」
たにし。
全員が同時に動く。
ひょい。
たくろーがカスタネットを没収した。
「むー!」
こはる抗議。
「むー!じゃない」
「ひとでくる!」
「来るからダメなんだよ」
たにしが真顔で言う。
一瞬。
全員が空を見上げる。
何も聞こえない。
何も見えない。
大丈夫そうだった。
「……城行くぞ」
たにしが言う。
「おー!」
あいりが元気よく手を上げる。
「おー!」
こはるも続く。
「観光じゃないからな?」
たくろーが釘を刺した。
「え?」
「りょこう?」
幼女二人が不思議そうな顔をした。
もうダメだった。
「行くぞー!」
お豆ちゃんを先頭に。
ルノア組は白虎城へ向かって歩き出した。
その遥か遠く。
空の向こうで。
「ぐる?」
ヒトデが一度だけ振り返った事を。
誰も知らない。




